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美弥ちゃん上京



 
   

美弥でぇす!お兄ちゃんがいつもお世話になってまぁす!
今日は土日を利用してお兄ちゃんのいる東京にやってきました!
お兄ちゃんはデザイナーを目指してるだけあって、オシャレなお店なんかに連れて行ってくれるかな?なんて思ってます。

今はそのお兄ちゃんをこの新宿駅で待ってるんだけど…

「美弥ー!悪い!待ったか?!」

やっと来ました。

「遅いよ、お兄ちゃん!」
「悪い悪い。出かけにちょっとあってさ」
「ちょっとって?」
「別にたいしたことじゃないんだ」

ありゃ?顔が少し赤いですな?

お腹が減ったから何か食べたいって言ったら、新宿はよく知らないから、原宿か渋谷にしないかって。
お兄ちゃんもなかなか都会に馴染んでるみたいで美弥ちょっと複雑な気分。

「原宿でお買い物したいから原宿にしようよ」
「いいぜ。山手線ですぐだしな」

黄緑色の線が入った電車に乗って、原宿に来ました!嬉しい〜!駅にある広告の看板もオシャレなのばっかり!

「先にご飯食べようよ。今日はお父さんからお小遣い貰ってきたんだ。お兄ちゃんと一緒にご飯食べなさいって」
「マジで?!やった!タダメシ!」

実はお兄ちゃんは貧乏です。バイトをクビになってから見つからないんだって。

「行きたいカフェがあるから、そこにしない?」
「わざわざ調べてきたのか?」
「うん。友達に聞いてきた」

裏原宿にあるカフェがオシャレだよって友達が言ってて、美弥もそこに行きたかったの。
一番オシャレなのは369(ミロク)ってとこなんだけど、そこはなんだか成田さんを思い出したからやめました。
カフェがたくさんあるから少し迷ったけど、一番奥の方にあるお店にしました。そこのじゃこごはんがおいしいんだって。

「あのな、美弥。おまえにどうしても会いたいってヤツがいるんだけど、いいか?」
「なーにー?お兄ちゃんの彼女?」
「バカ!違う!知り合いっつーか、友達っつーか、まあ、なんだ。そんなもんだ」
「女の人じゃないの?」
「男だ」

誰だろう?男の人?お兄ちゃんに美弥を紹介してもらってどうするのかな?

「どんな人?」
「えーと、モデルやってるんだ。ちょっとアホだけどいいヤツだから」
「え、モデルさんなの?!会いたい!美弥会って写真とか撮ってもらいたい!」
「写真か…平気だと思うけど、友達とかに見せびらかすなよ」
「わかった!」

モデルさんと知り合いなんかになったんだ!お兄ちゃんすっごーい!
楽しみ〜♪

それからお兄ちゃんと買い物をして、クレープ食べて(やっぱり原宿はクレープ!)お父さんのお土産にお菓子を買ったの。デメルってゆーケーキ屋さんのザッハトルテ。お兄ちゃんオススメの一品!

「じゃ、そろそろ帰るか」
「うん。でもさ、お兄ちゃん。モデルさんとはどこで会うの?」
「ああ、仕事があるって言ってたから、夜だな。夕飯ゴチしてもらおうぜ」
「えー?いいの?」
「いいんだってさ。美弥に会いたいって言い出したのはあいつなんだから」

お兄ちゃんのアパートは夏休みに一回来たけど、狭くて古いアパートだったよ。なんか悲しくなるほど何にもなかったような気がする。
その時は美弥にベッドを譲ってくれて、お兄ちゃんは床で寝てたけど、あれは夏だったから出来ただけで今回は冬でしょ?
だから今回お兄ちゃんが床で寝るつもりだったらって心配してるんだ。

緑色の線が入った地下鉄でお兄ちゃんの住んでる根津に到着。
重い荷物はお兄ちゃんが持ってくれて、美弥は軽い買い物した袋だけ持った。やさしいなあ、お兄ちゃんは。
部屋は相変わらず殺風景で、ベッドとお膳とテレビと一昔前のCDラジカセしかない。あ、でもミシンと棚が増えたんだっけ。ご近所さんに貰ったんだって。

荷物を部屋の隅っこに置いて、お兄ちゃんと一緒に紅茶を作って飲んだ。やっぱ特売のティーバッグなんだ。そりゃそうだよね。東京に来たからって高価なものは買えないし。お兄ちゃんらしくていいかな?

美弥の学校のことなんかを話してたら、お兄ちゃんの携帯が鳴った。
着信音はお兄ちゃんらしくないやつ。えーと、何だっけな。タイトルは知らないけど有名な曲で、めちゃイケで加藤浩次が主役の日にかかるやつ!
『あいらーびゅーべいべー』ってやつ!

え?

「ああ、今家にいる。直江は?」

なおえ?女の人?!お兄ちゃんの彼女?!

「そっか。じゃあ外で待ってるから」

待つって?今日はこれからモデルさんに会うんじゃないの?
電話を切ったお兄ちゃんは事も無げに言いました。

「今から迎えに来るから外で待つぞ。コート着て。あと行儀良くしなきゃダメだからな」
「はーい」

なんか、変なの。

 


外で待ってたら、一台のダークグリーンの車が美弥たちの前に停まりました。中からドアが開いて…え?!って思ったらメチャクチャかっこいいお兄さんが出てきたの!

「こんばんは。美弥さんですね。はじめまして」
「は…じめまして。美弥です。いつもお兄ちゃんがお世話になってます」

年齢はたぶん30歳ぐらい。背が本当に高くて、お兄ちゃんよりも大きいし、顔は美形だし、優しそうだし文句はないって感じ!
こんなモデルさんとお兄ちゃんが仲良しだなんて信じられない!

「直江といいます」
「芸名はタチバナってんだけど、美弥は知ってたか?」

そういわれてみたら…さっきの原宿駅の看板で見たような気がする!!本物だー!!

「名前は知らないけど、顔は知ってます!」
「そうですか。光栄ですね。では行きましょうか。高耶さんと一緒に後ろに乗ってくださいね」

お兄ちゃんが「え?」って顔をしたんだけど、なんでかわかんない。
一緒に後部席に乗って、直江さんの運転で後楽園遊園地に行きました。後楽園遊園地は改装して、レストランがたくさん出来てた!正直言ってオシャレじゃないけどね。

「ここを予約しておきました。カジュアルな店ですから気兼ねはしないでくださいね」

エビばっかりが料理されて出てくるレストランで、中には衣装が飾ってあった。

「お兄ちゃん、ここなあに?」
「ババガンプっつって、フォレストガンプって映画をコンセプトにしてあるんだと。オレも初めてだけど」

なるほどね。それで衣装や写真がたくさんあるんだ。学校の友達のお土産にカップとか買いたいな。
席にもコンセプトがあるみたいで、漁師さんが使うような網がある席や、外国の食堂みたいな席や誰かの家の中みたいな席があった。
美弥たちが座ったのは、誰かの家みたいな席。レースや壁紙がカントリー調で可愛いの。直江さんは美弥のためにこの席にしてくれたんだなー。

「お兄ちゃんとはどこで知り合いになったんですか?」
「横浜で仕事の手伝いをしてもらったんです。それから家が近所なこともあって仲良くさせていただいてます」
「お兄ちゃん、なんの手伝い?」
「フィッター」
「ああ、学校で募集してるバイトね。そっかー。そうゆうとこでモデルさんと知り合いになれるんだー」

お兄ちゃんはちょっと渋い顔をしたけど、直江さんは嬉しそう。
おいしいエビ料理をたくさん食べて、直江さんともたくさんお喋りして、お兄ちゃんはたまに複雑そうな顔をするけど楽しそうでなんか安心しちゃった。
直江さんとお兄ちゃんは気が合うみたいだし!
それに直江さんと写メでツーショットもしたの!ああ、見せびらかしたい〜!

「今日はどうするんです?高耶さんの部屋では一緒に眠れないでしょう?」
「ベッドで二人で寝ようかと思ってんだけど」
「良かったら私の家に泊まりませんか?客間に布団はありますから」
「でも悪いよ」
「いいんですよ。高耶さんの家だと思ってくださいって何度も言ってるでしょう?」
「うわ!」

美弥はお土産を選ぶんでちゃんと聞いてなかったけど、お兄ちゃんが大きな声を出して顔を赤くしてた。直江さんはその横でクスクス笑ってるし。
結局は直江さんちに美弥もお兄ちゃんも泊まることになったんだ。

 

 

広いマンションの部屋で、美弥驚いちゃった!
だってうちは直江さんちの半分もないんだよ!こんなマンション、ドラマでもなかなか出てこない!

「客間に布団敷くから手伝え」
「はーい」

まず、美弥の疑問を皆さんにも話します!

いち。お兄ちゃんのパジャマがなぜ直江さんちにあるのか。しかもシルク。
に。 直江さんちの洗面所に歯ブラシが二本ありました。誰の?水色と、青の。
さん。お兄ちゃんはこの部屋の隅から隅まで把握してます。
よん。お兄ちゃんのキーホルダーには家の鍵らしきものが2本付いてます。
ご。 しかも直江さんとお揃いのキーホルダーです。エルメスです。
ろく。お兄ちゃんが直江さんの寝室からこっそり枕を運んでるのを見ました。
なな。あの着信音がなぜ直江さん専用なのか。

さて、ここから連想できるものはなんでしょう?

………………もしかして、お兄ちゃんたち、付き合ってるんじゃないの?
恋人ってやつ?!
そうよ!絶対そう!美弥のこーゆー勘は当たるんだから!
もう高校生なんですからね!

でも美弥は知ってるんだよね。お兄ちゃんにこうゆうこと聞くと絶対に怒られて、そんで恥ずかしがって、違うって言い張って、相手を傷つけちゃうんだよ。

お兄ちゃんがお風呂に入ってる間に、直江さんに聞いてみよーっと。
ウッシッシ。

 

 

「つかぬことを伺いますが、直江さん」
「はい。なんですか?」

こうして見ると本当にかっこいい。お兄ちゃんの十倍はかっこいいんじゃないかな?
お兄ちゃんもかっこいいほうだとは思うけど、直江さんほどじゃないような…。でも、美弥のお兄ちゃんは誰よりもかっこいいって、美弥は思ってますからね。

「直江さんて、お兄ちゃんの恋人でしょ?」

直江さんは美弥が作ったハーブティーでむせました。
ゲホゲホゲホーって。

「急になんてことを言い出すのかと思ったら…」
「違わないですよね?」
「…違いませんよ。美弥さんの言う通りです。でも高耶さんには内緒にしててくださいね」
「はい。それはわかってます。あのお兄ちゃんのことだから」
「さすが妹さん。高耶さんの性格を充分把握してますね」

直江さんは美弥にも優しいけど、お兄ちゃんにはもっと優しくて、包むみたいな目をするからなんだか安心できる。

「お兄ちゃんは、美弥をお父さんの暴力から守るためにずっとガマンして、耐えて、頑張ってたんです。やっとお父さんが真面目に働くようになってからも、家計を助けるためにバイトしたり、学費を稼いだりして誰にも甘えられなかったから、これからは直江さんがお兄ちゃんを守ってくれたらいいなって、美弥は思ってます。意地っ張りで強情で、直江さんを怒らせるかもしれないけど、たぶん、直江さんはお兄ちゃんにとって大事な人だと思うから、よろしくお願いします」
「…わかりました。これからは私が高耶さんを守ります」
「甘えさせてあげてくださいね」
「もちろんです。美弥さんはお兄さん思いの優しい女性ですから、そんな方の頼みならいくらだって聞きますよ」
「ありがとう、直江さん♪」

お兄ちゃんもやっと甘えられる相手が出来たってことね。
はー、なんか美弥、娘を嫁に出す父親の気分。感慨深いわ〜。

 

その夜は、お兄ちゃんと一緒に客間で寝ました。
なんだかお兄ちゃんのそばにいられるのが嬉しくて、お兄ちゃんが幸せならなんでもいいやって思ったの。
直江さんもいい人だし、美弥にお兄さんがもう一人出来たみたいだし。
明日は直江さんの助手席に座っていいからね。美弥は一人で後部座席でいいからね。

でもお父さんには絶対話せない…。

 

 

END

 

あとがき

時系列は考えないで読んでください。
五月病のリハビリで書いたので 。
美弥ちゃんは可愛いのでどうしても
出てもらいたかったんです。
美弥ちゃんに愛されてる高耶さん、てゆーのが
書きたかった!
高耶さんの「直江専用着信音」はコレしかないな、と
思いました。

   
         
   


   
 

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