「かわいい〜!!」
「何がだ」
「高耶くんよ!手、繋いでて、だって!寝言でそう言うんだもん!つい握っちゃったわ!」
「勝手に高耶さんに触るな」
「何よー。看病してあげたんじゃないの。感謝しなさいよね」
「感謝はするが…俺の高耶さんの手を…」
その役どころは俺がしたかったのに!
「いいじゃない。あんたの代わりよ」
「代わりだと?」
「手、繋いでて。直江。だって〜!もうあんたたちマジでラブラブなのね!」
そうだったのか!俺に手を繋いでて欲しかったんですね、高耶さん!なんて可愛い人なんだ!
「あれじゃあんたがメロメロになるはずだわ。あんたじゃなくてもドキッとするわよね」
「俺だけでいいんだ」
「あー、もう本当にかわいい!抱きしめたくなるわ!」
「やめてくれ!」
しばらく綾子は可愛いを連発していたが、自分も腹が減ったとかで勝手に夕飯を作り出した。
その間に俺は高耶さんのいる寝室へ。
髪を梳いてやると目を覚ました。
「なおえ?」
「ええ。帰ってきましたよ。もう寂しくないでしょう?」
「夢で直江に手を繋いでもらってたから寂しくなかった」
「そうですか。今、綾子が夕飯を作ってますから、食べられるようだったらベッドの中ででいいですから食べてください」
「ねーさん?そっか。ねーさんが来てたんだっけ」
「ずっと高耶さんのそばにいたそうですよ。手も…」
「…手も…?」
しまった。手を握っていたのが綾子だと知れたら…
「もしかして、夢の中で手を握ってくれたのって、ねーさん…だったり…?」
「あ、あの、あの」
「ねーさんだったのか?!オレ、夢の中で『直江』って言っちまったぞ!まさか!」
ああ、もうしょうがない!
「実は綾子は私たちの仲を知ってるんです。だから大丈夫なんですけど…その…」
「………………」
高耶さんは顔を真っ赤にして布団に潜ってしまった。熱がこれ以上上がったら!
「大丈夫ですから!」
「オレはイヤだ!もう顔合わせらんねー!」
「大丈夫ですよ!理解のある女ですから!本当に平気です!」
「バカー!」
バカと言われても…。
「綾子はあなたが可愛くてしょうがないんですって。私と同じですね。そんな綾子があなたの不利になるようなことはしないでしょう?それに色々と力になってくれますって。恥ずかしいのはわかりますけど、綾子が寂しがりますよ?ね?」
「でも…」
「もし私が女だったら、あなたは恥ずかしがらずに綾子に報告するでしょう?それと同じですよ」
「そうかも知れないけど…」
「高耶さんが恥ずかしがってるのは、私にとっては悲しいんですけどね…。あなたが私との仲を『恥ずかしいもの』として受け止めている、ということなんですから」
「あ…ごめん。そうゆうわけじゃないんだけど…」
「だったら綾子に恥ずかしがらずに会ってください」
「…わかった」
そうこうしているうちに夕飯が出来たと声がかかった。
高耶さんは起きてダイニングで食べると言うから、パジャマの上にパイル地のパーカーを着せて連れて行った。
テーブルには和食が並んでいる。高耶さんのために小さい土鍋でお粥も作ったらしい。
「どう?お姉さんだって料理ぐらいできるのよ〜」
「うまそうだな。すげーじゃん、ねーさん」
「さ、座ってちょうだい。この煮魚はあんたのために柔らかくしたんだからね」
「ありがと」
高耶さんが椅子に座って綾子の料理を食べた。頬が少しだけ色づいて桃色になった。
「母さんの煮魚の味に似てる…」
「おいしい?」
「最高」
俺も食べたがなるほどうまい。普段の綾子からは想像がつかないほどだ。
こうして三人で食卓を囲むと、親子三人家族のようだ。現実は違うが、高耶さんが和んでくれるならこれも許せるような気がしてきた。
「ねえ、美味しいシャーベットもあるんだけど、高耶くんどう?」
「うん、食べる」
場所をリビングに移し、高耶さんと綾子はシャーベットを食べていた。俺はコーヒーを飲みながらそれを眺める。いささか妬けるが高耶さんは綾子との距離をうまくとって、俺たち二人の関係を綾子がどのように受け止めているのかを探っているようでもあった。
「さっき、手握ってくれてたのねーさんなんだってな」
俯いてボソリと言った声を綾子が自然に受け流した。
「そーよォ。感謝なさい」
「うん、ありがと。その…直江の代わりしてくれて、ありがと」
自分から関係を認めた高耶さんに驚いた綾子は、俺の方を見て目で合図した。彼は知っているのか、と。
だから軽く頷いてやった。これで綾子は高耶さんから大きく心を開いてもらったことになる。
「もー!あんたってば本当に可愛いんだから〜ぁ!」
高耶さんに抱きついた綾子。嬉しかったんだろう。高耶さんに心を開いてもらって。
だが。
「離れろ!高耶さんに触るな!」
「何よォ。ちょっとぐらいいいでしょ〜」
「ダメだ!おまえに触らせるわけにはいかん!高耶さんは俺のものだ!」
乱暴に剥がして高耶さんを掻き抱いた。
「離せよ!バカ!」
「そうよ、独り占めするつもり?!」
「独り占めして何が悪い!」
俺のものだと言っているだろうが!
「愛してます、高耶さん!」
「はーなーせー!」
俺たちのそんな姿が可笑しかったのか、綾子は大笑いした。正確にはそんなタチバナの姿、か。
「ねーさん?」
首を傾げてキョトンとする高耶さんの愛らしいこと!
「あんたたち、ホントにいいカップルね。うん!協力は惜しまないから何でもおねーさんに相談しなさい!」
「だ、そうです。高耶さん」
「うん。サンキューな」
「じゃ、そうゆうわけで」
高耶さんをさらに強く抱いて、キスをした。綾子も高耶さんも驚いて目を丸くしてしまった。
「なななな、なおえー!!!」
「愛してますよ」
「バカー!!!」
ダッシュで寝室に逃げてしまった。やりすぎたか?
「あんたってそーゆーキャラだったっけ?」
「らしいな」
「今度からバラエティ番組の仕事も取ってあげよっか?」
「それは勘弁してくれ」
「高耶さん」
「バカ」
「高耶さん」
「バカ」
「綾子は帰りましたよ。あなたと親しくなれた気がして嬉しかったって言ってました」
「バカ」
「直江も変わったわね、ですって。あなたが変えてくれたんだと言っておきました」
「バーカ」
「愛してますよ。高耶さん」
「オレも」
直江のバカっぷりは今に始まったものじゃないけど、そんなとこもオレは好きかもしんない。
ねーさんに直江とのチューを見られたのは恥ずかしかったけど、直江はねーさんに認めてもらえて嬉しかったに違いないんだ。だからうっかりチューしちゃったんだろうな。
「布団から出てきませんか?」
「ん」
起き上がって直江に抱かれた。やっぱここが一番安心できて心地いい。
背中に直江の大きな手が回る。ポンポンと静かに叩く振動が気持ちを安定させる。
「こうしてあなたを抱いていると、自分がきれいになって行くような気がします。いろんな無駄なものが落ちてあるがままの自分になれるような、優しい気持ちが湧いてくる。誰にでも優しくできる自信が湧きます。世界中の誰にでも、愛を分けてあげられるような、そんな気分です。綾子が幸せになれるように、長秀が幸せでいられるように、美弥さんや、譲さんや、あなたのご両親も、お友達も。何より高耶さんが幸せでいられるように、祈りたくなります。すべてに感謝します」
「わかる、そーゆーの」
「あなたを好きになって良かった」
「直江がいつも幸せだったらオレも幸せ」
「愛し合うって、素晴らしいことなんですね」
「うん。オレも直江を好きになって良かったと思う。直江じゃなかったら、きっとこんなのわかんなかった」
優しく背中を叩く手も、髪を梳く指も、静かな声も、すごく大事だ。
きっと直江も同じ気持ちでいてくれてる。オレの背中も、髪も、声も、直江に抱きつく腕も、きっと直江は大事に思ってくれてる。
「キスしていいですか?」
「うん」
チューする唇も、大事にしたい。
「高耶さんが治ったら、いろんなことをしましょう。散歩したり、ベランダで食事したり、旅行をしたり。どんな小さいことでも一緒にしましょう。二人で全部、一緒に。きっとたくさんの発見があって、楽しいですよ。あなたの心が私の心と溶けあうように、一緒にいましょう。ね、高耶さん」
「うん。何でも一緒にな」
「愛してます」
「愛してる、直江」
直江の腕の中で眠るまで、ずっと抱いててもらった。
「よ、直江。お疲れさん」
事務所で長秀に会った。ニヤニヤしてる長秀は危険だ。
「おまえ、綾子の前でチューしたんだってな」
「な…!」
「もうあいつ興奮して電話してきたんだぜ!ねーねー、長秀〜、聞いてよー!ってよ。あーあ、俺も見たかったな〜!」
あいつ…協力するのは俺たちだけじゃなく、長秀にもってことなのか?!
許せん。
「綾子」
「あら、直江〜。高耶くんは治った?」
「二度とおまえに高耶さんを会わせんからな!」
「へ?なんで?」
「長秀に言っただろう?!」
「あ、ゴッメーン!ついね。エヘヘ」
罪悪感はないのか。
ああ、これで悪魔が三人になってしまった。長秀、綾子、譲さん。
高耶さんがいつも幸せでありますように!
切に願う。
END
あとがき
私も切に願うよ。
高耶さんの病気は何にしようかと
考えてたら、この時期に私も
水疱瘡になったので決定しました。
リアルな描写でしょ?(爆死)
直江がどんどんイロモノキャラに
なってますな。