アルバイトを探さないと、と思うようになってすでに半年が経つ。直江んとこでバイトした金で光熱費を払ってたんだけどそれももう無くなった。
親父からの仕送りをどうにかやりくりして、あと直江と食事をして節約してたけどとうとうそれじゃ間に合わなくなった。
やっぱ夏休みは課題の他にもガッツリ働いておきたいし。
さてと、どうすっかな〜。
専門学校2年目に同じクラスになって、仲良くなったヤツがいる。
そいつはもうホントに最近になって仲良くなったんだ。
兵頭隼人。年齢はオレより2歳上で21歳。
高卒でアパレルの販売で働いてたんだけど、どうしてもデザイナーになりたくて2年間貯金して入学したんだって。
オレと同じ苦学生だ。
他にもバイクが好きだって話で気があったのか、最近はよく話すし、一緒にメシ食ったりして行動してる。
でな、ここからがオイシイ話だ。
兵頭はバイカーズショップの販売のバイトをしてる。バイクはもちろん修理やカスタムもするし、売り物は服や小物、銀製品を扱う店だそうだ。
バイクに乗るのもファッションの一部ってコンセプトの店で、主にアメリカンタイプのバイクと用品を扱っている。
そこでなんと、縫製のアルバイトを探してるって言うんだよ!ズボンの裾上げとかの縫製。
他にも商品管理や接客も少しやらないといけないけど、なんたってバイク関連だし洋服関連だしでオレは飛びついたね。
話を聞いたその日に履歴書を書いて一緒に店まで行って面接してもらった。
結果はゴーカク!!合格だよ、おい!!
さっそく明日から働きますです、はい!
「そうですか、バイト見つかったんですね。良かった」
「うん、また明日からあんまり会う時間がなくなっちまうけど、ここには帰りに寄るから」
直江のマンションでさっそく報告した。
男だらけの職場で、客もだいたい男で、学校から近くて、って。
直江は勝手にバイトを決めて、って怒るかと思ったけど全然平気だった。そりゃそうだ。オレが切迫してるの知ってるもんな。
「直江もたまに来いよな。革小物なんかあって直江でも気に入ると思うんだ」
「ええ、行きますね。高耶さんが接客してください」
「おっけーい」
バイトはシフト制で週に3日程度。これなら直江のスケジュールに合わせて休みも取れる。
課題も今のところ順調だし、このまま万事うまくいけばいいなー。
翌日、兵頭と一緒にバイト先まで行って、ショップの仕事内容をおおまかに聞いた。
オレの職場は兵頭と同じ、ファッション系のフロアでバイク売り場とは違うスペースだった。社員の人について色々と実習してみる。
基本的に縫製はヒマな職種だそうだから、特にやることがない場合は店内の整理整頓をすることになった。
「じゃ、さっそくで悪いけどこのハンディモップで掃除しといて」
「はーい」
掃除をしながら配列なんかを覚える。これはどんな店でも基本だな。
そうして掃除を続けていたらオレにとって第一号の客が来た。
「いらっしゃいませー」
ちょっと抑え目の声で第一声。バイカーズショップだからコンビニとは違った声じゃないとな。
「高耶さん」
「直江ー!さっそく来たのか!」
「ええ、せっかくですから」
オレの働くフロアに入ってきたのは長身で目立つルックスの最高にかっこいい男だった。
「どうですか?」
「うん、楽しいと思う。バイクの小物とかたくさんあるから見てるだけでも楽しい。それに従業員の人たちも気さくな感じだから
緊張しないで話せるよ」
「良かったですね。ずっと続けられるといいですね」
「続けるっての。元々オレは努力家なんだから」
「そうでした」
「せっかくだから店内見てってくれよ。気に入ったものがあったら買えよ?」
「はい」
直江を案内しながら掃除した。初日のオレが何かを説明できるわけじゃないんだけど、やっぱ一応彼氏だし?うへー。
「仰木?大丈夫か?」
「あ、大丈夫。知り合いだから」
兵頭が心配してオレと直江のそばまで来てくれた。接客はプロだからフォローしようとしてくれたんだな。
「あれ?仰木…その人って…モデルの」
「うん、タチバナヨシアキ。知り合いなんだ」
「ふーん…はじめまして、兵頭、と言います」
「はじめまして。こちらが高耶さんの同級生の方ですか?」
「そう、同じクラスなんだ。もし何か欲しいものがあって、説明が要るなら兵頭に聞けばわかるぞ」
「いえ、私は…高耶さんの客ですから、高耶さんが説明できるようになってから来ます」
「えー!せっかくだから何か買え!」
「そう言われても…」
もしかして欲しいものなんかないってことか?そりゃ直江っぽくないグッズばっかりだよ。でもさ。
「あ、この銀のシルバーブレスは高耶さんに似合いそうですね」
「オレじゃなくて自分のは?」
「お揃いにします?」
「ば、バカか!」
は!今の兵頭に聞かれてなかっただろうな!
「タチバナさんだったらこっちのチェーンブレスの方が似合うと思いますよ。これならタチバナさんのようなシャープな服装で
映えますから」
き、聞かれてたかも…。
「高耶さんはどう思います?私でも若者向けのブレス似合いますか?」
「え、うん。似合う」
「そうですか。…とりあえず他にも見ますから付き合ってください」
直江と店内を回って商品を見たけど、やっぱ直江に合うような物が少ないなー。
兵頭はオレが説明できないからって一緒になって直江に付き合ってくれる。いいヤツだ。
直江といえば兵頭がウザいみたいな態度を取ってたけど、でもそれはしょうがないんだよ。だってオレ、全然説明とか出来ないもん。
「あ、いけない。そろそろ出なくては。じゃあさっきのブレスレット買って帰ります」
「そっか。また仕事なんだ。じゃ、レジこっちだから」
直江を連れてレジへ。そこでは社員の人が対応してくれた。
しかし!!なんと直江が買ったブレスレットはちょっとした装飾があるだけなのに5万もした!!ゴメン!
「ではこれで」
「あ、表まで送る!」
表へ出て直江に謝った。だってまさか5万もするなんて思わなかったんだ。
「気にしないで。あなたが似合うと言ってくれたから欲しくなったんです。今日は帰りは、どうします?」
「一回帰ってから泊まりに行く。10時ぐらいになると思うけどいい?」
「迎えに行きますよ。アパートに着いたら電話を下さい」
「わかった。じゃ、またな」
直江が帰って店内に戻るとみんなもう直江のことは関心にないみたいで聞かれなかった。モデルには興味がないらしい。
みんなの興味はバイクだもんな。
「仰木。タチバナとはどこで会ったんだ?」
直江に関心を示したのは兵頭だけ。
「横浜でフィッターのバイトした時にな。それからまたタチバナの事務所でバイトもしたし」
「へえ。それでこの前長秀がウォーキングの講習してくれたのか」
「うん」
「タチバナねえ…ま、雑誌で見るよりはいい男なんじゃねえの?」
「そうか?しかし5万もするもの、ポンと買うとはな。いつも思うけどあいつって物の価値とかわかってんのかな?」
「いつも?いつもああなのか。そうか…」
「どした?」
「いや、別に」
そんな話をしてたら数人の客が入ってきて、兵頭はそっちの接客に。オレはまた掃除に戻った。
あいつは絶対に俺と高耶さんが二人で話すのを阻止していた。明らかにだ!
許せん…。
高耶さんは自分へ対しての好意に鈍感だ。私の時もそうだったが、先日の女の子といい、今回の兵頭とかいう男といい、誰からもどう見たって好意を持たれているのがわかるというのに。
あんなバイトを紹介したのだって、あの兵頭が高耶さんと一緒に過ごしたいだけなのが見え見えだ。
男ばかりの職場で、客も男ばかりだというから安心していたがとんでもない!!
あの人の色香、瞳、唇、物腰、すべてが女だけじゃなく男すら惹きつける…。
辞めさせなくては。
とはいえ、せっかく見つかった理想のバイトを簡単に高耶さんが辞めるとは思えない。困った。
そうだな。だったら兵頭が高耶さんを諦めるように仕向ければいいわけだ。私とラブラブなのを思い知ればいいんじゃないか?
いや、待て。
どうもあの兵頭の目は私たちの関係を疑っているようだった。
それならそれで手の打ち方がある。
高耶さんが怒らない程度に私たち熱愛ぶりをわからせる。
ふん、楽しくなってきたじゃないか。
この俺を敵に回したことを後悔するがいい、兵頭!!
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