同じ世界で一緒に歩こう 21 |
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「オレも入ってくる」 しっかりと鍵をかけて風呂に入ったけど、直江が来る様子もなくのんびりと風呂を堪能した。自分のアパートの風呂はユニットバスだから、立ってシャワーを浴びるか、たまにお湯を張って短時間浸かるって感じ。だから直江のマンションにこんな豪華な風呂場があるのがメチャクチャ嬉しい。 バカバカしいことを考えながら風呂から出て、脱衣所で体を拭いた。水滴を拭き取るとすぐに汗が噴出してきて、体が少し冷めるまで拭き続ける。せっかく風呂に入ったのに汗臭くなったら嫌だなー。 「冷たいやつがいい」 こうゆうのって甘やかされるって言うのか?厳しくされてるようでもあって、甘やかされてるような気もする。 「じゃあ氷を一個だけ入れてあげます。これで我慢してください」 ロックアイスの小さいのを一個だけ冷凍庫から取り出して、グラスに入れてくれた。 「髪を拭きますよ。こちらにどうぞ」 付き合ってからすぐに、風呂上りのオレの髪の毛を拭くのが直江の習慣になった。オレだってちゃんと拭いてるつもりなんだけど、直江がやってくれるってわかってるから手抜きしちまったりもする。 「テレビ見たい」 こいつってあんまりテレビ見ないんだよな。普段、暇な時は何をしてるのかって聞いたらだいたい音楽をかけて聞くか、本を読んでるか、ビデオやDVDで映画を見てるんだって。 『その情報のおかげでおまえの仕事があるんだぞ』って。 オレは垂れ流しだとは思わない。見るのは本人の意志なんだからさ。 リモコンで1って数字を押して、見たい番組を呼び出した。テレビを見るってことが髪を拭く手を止めるきっかけになった。 「お、これこれ〜。前に見逃したから再放送を待ってたんだよなー」 それはだな、国営放送で1ヶ月前に放送した美術番組。すっかり忘れてお笑い番組なんか見ちゃったもんだから悔しかったなあ。 「ルネサンス、ですか?」 直江が答えた最初の2問は正解だった。『再生』がルネサンスの意味。主な芸術家はミケランジェロ、ラファエロ、ダビンチ。 「えーとな、オレもあんまり自信がないんだけど、古代ローマ・ギリシアの学問、文献、芸術の復興、って意味…だったっけな?」 甘えるみたいに直江の膝にもたれかかりながらテレビを見てた。 「直江はこの中だったら、どの芸術家が一番好き?」 どんなに聖人の絵を描こうが、実に人間くさい表情をしてる。無表情に見える彫刻だって、ちゃんとその背景を知っていれば …ミケランジェロの作品は、直江に似てる。不器用で、誰よりも臆病で、泣きたくなるほどの激情と孤独を持ってて。 「高耶さんらしいですね」 嬉しいけど恥ずかしくて、しかもなんかちょっと悲しくて、誤魔化すために直江の足を平手で叩いた。 「イタタタ…ああ、もう。痣になったらどうするんですか」 そっぽを向いたオレの頭に手を乗せて、柔らかく撫でる。湿った髪をパサパサと。それからつむじにチューされた。 「本当のことですよ」 その夜、オレがミケランジェロになった夢を見た。直江のせいだ。 『あなたが私を生んでくれた』って。
制作は順調に進んで、期日の一週間前には完成した。モデル役の小島さんに試着をしてもらうために会わないといけないんだけど直江がいい顔をしない。 「会うってどこで会うんですか?」 すっごいムカついてる顔してやがる。だけど着てもらわないと寸法の直しができないから会わないわけにはいかない。 「もう何を心配してるんだかな。別に浮気もしないし、誘惑するような子じゃないし、直江が不安になることねーのに」 怒鳴ったオレを睨み返して、ふて腐れた顔で床にゴロンと転がった。直江にしては珍しい行動だ。 「そうですよね。邪魔しないって言ったのは私ですからね。何も考えないようにしますよ」 チラッとオレを見て、プイと横を向く。これっていつもオレがしてることの真似か?恥ずかしい。 「直江〜…そう拗ねるなって」 呆れた。いい年した大人がこんなんでいいのかよ。ご機嫌取るのも大変なんだぞ。 「じゃあどうしたらいいんだよ…」 こうなったらいつものウルウル攻撃しかねーな。めんどくせーな。 「着てもらわないと寸法直しがあっても出来ないし、それで成績が悪かったら除籍かもしんねーし…そしたら直江と一緒に住むことも出来なくなる…実家に帰ってガソリンスタンドとかに就職して、直江とも遠距離恋愛になるんだ…」 騙されやすい男だな、まったく。しょうがねえ、サービスしてやっか。 「オレが愛してるのは直江だけだから」 もうマジで恥ずかしいよ。気分も出ないのにこんなセリフ言うなんてさー。
学校で小島さんに会って、その場で寸法合わせも完璧にこなして完成!! 「やっと正味の新婚生活モードに突入ですね!」 ちょ、ちょっと待てよ!それって!毎日するってことかよ! 「冗談だろ!そんなの無理に決まってるじゃんか!自分のことばっかり考えやがって!」 急に優しくて真面目な顔になった直江が何を言い出したのか一瞬わからなかった。 「だから同棲してる間はたくさん甘えてください。キスもたくさんしましょう。あなたのためなら何だってしますから」 夏休みだけの同棲生活はこれから。もっと深く、直江と理解しあって、愛し合って。
あ、でもその間に合宿があるんだっけ。何も起こらなければいいけどな…。
END
あとがき 本当にダラダラした話になりましてすいません。
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