同じ世界で一緒に歩こう

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合宿での事件

その2

 
   


翌日は朝食が終わってからすぐにステージの準備になった。設置してあるステージでモデル役はリハーサルがある。
オレと矢崎と兵頭はモデルもやるからホールでリハーサルをした。
直江もこうゆうリハとかやってるんだよな。けっこう面倒くさくて直江の苦労がわかった気がする。実行委員に指示されてウォーキングとポーズを音楽に合わせてやってみたけど本当に大変だった。
リハを終えて部屋に戻るとすぐに昼飯。こんなに時間が早く流れるのって今まであったかな?ないな。

昼飯が終わると自分の作った服を出して小宴会場に行く。そこにはアイロン台がたくさん設置されてて、みんなが最後の仕上げをやってるとこだった。
アイロンがけで服の見栄えが80%は違うって知ってたか?もうシワ一本残さないようにアイロンをかけなきゃいけないんだ。

直江の家のアイロンで一応やってはおいたけど(低温度スチームの高級品だ)持ってくる間にもシワは増える。
オレの服はスカートが何枚もの布で重なって出来てるから、一枚一枚丁寧にかけていかなきゃいけない。しかも重なりの部分は神経を尖らせてやらなきゃ新しいシワが出来ちまう。

時間をかけてアイロンしてたら小島さんが急ぎ足で宴会場に入ってきた。

「仰木くん!もう時間ないよ!」
「え?!もう?!」
「早く!」

小島さんはオレが着るスーツを抱えてた。ドレスと交換して急いで自分の部屋に行って着替えて、ホールに行った。すでに他のクラスの発表が始まってて、音楽に合わせて女の子がステージに上がっていく。

「仰木くん」
「あ」

振り向いたそこには小島さんが立ってた。オレが作ったドレスは小島さんによく似合ってた。ショー用のメイクをして髪をクルクルに巻いてアップにしてる。髪は複雑に編んであって、リボンが絡まってた。自分なりにアレンジして服を良く見せるためにやってくれたんだ。

「どう?変じゃない?」
「うん、すごく上手く着てくれたんだな。サンキュー」
「仰木くんも似合ってる。良かった。仰木くんに頼んで大正解だね」

美弥の方がイメージには合ってるけど、小島さんもこうして見るとなかなかだ。

「あとで一緒に写真撮ろうね」
「いいよ」

アナウンスがあって次はオレたちのクラスの発表になった。うわー、緊張する!
イメージが似てる服をまとめて3人出すようになってる。オレのドレスの他にもキュート系の作品があったから、音楽に合わせて3人同時にステージに出ることになってる。まずはクール系の服のメンバーが出てった。

この中には兵頭の作品も入ってる。兵頭は全身フェイクレザーで作った女バイカーの服だ。編み上げのビスチェに、同じく編み上げのベルボトムのパンツ、布面積よりも編み上げの紐の部分が大半のジャケット。すげーかっこいい。

その次はBガール系のギャル服。矢崎だ。ピタピタのラメ生地で作ったミニスカート、ドレープとラインストーンが利いた長袖のカットソー。あとフェイクファーをダウンベストみたいに段々を付けたベスト。サンバイザー付き。超クールだ。

それからNちん。イギリス風チェックのウール素材をギャザースカートにしてふんわりさせて、どうやったのかわからないギャザーがボタンから照射されるみたいになったストライプの長袖ブラウス。その上にはスカートと共布の丈の短いジャケットで半袖のパフスリーブからブラウスが出るようになってる。襟は黒のベルベット。最高に手が込んでるスーツだった。

で、オレ。
全体的に薄いピンクのドレス。上半身は体のラインが出る長袖で、素材はつや消しのシルクサテン。直江がパリで買ってきた
一番キレイな布だった。襟ぐりと袖口に銀色のビーズの刺繍をたくさんしてある。それにシフォンの布を芍薬の花びらの形に切って、何重にもしてバレリーナみたいな膨らみを出した膝丈のスカート。一番下にはチュールで作ったペチコートが入ってる。
オレにしては上出来のドレスだった。

ライトを浴びてビーズが光って、ステージにいた3人の中では一番目立ってた。先生の反応もいい。

「きゃー、もう緊張した!!」

小島さんがオレのとこに戻ってきて、顔を赤くさせて笑いかけた。

「すっげー良かったよ。ウォーキングも完璧だったじゃん」
「ありがとう!こんな可愛いドレス着られて嬉しいよ!次は仰木くんの出番だよ。よろしくね」
「ああ」

小島さんが作ったスーツはグレーのサマーウールで、パンツはダブダブしてるけど、ジャケットはウエストが締まってる。
前身頃をグルッと背中まで巻いて、サイドで紐状になった身頃を結ぶ、ってゆう着物スタイルのジャケットだった。
よくこんな和服と洋服のコラボみたいなのを思いつくもんだ。すげーな。

それを着たオレのステージは…直江を思い出しながら。
ウォーキングを教えてくれた千秋には申し訳ないけど、やっぱ直江の方がファッションモデルとしては上だからな。
直江になった気分でウォーキングして、ポーズとって。ものすげえ緊張したけど、転ばないでうまく出来た。

「お疲れさま!」

さっき小島さんが赤い顔で笑ってた理由がよくわかる。緊張もあるけど、恥ずかしいもんなんだよな。

「写真撮ってもらおうよ」
「そーだな」

テンションが高くなってて、腕を組まれて写真を撮られたのもなんとなく嬉しかった。自分の作った服を誰かが喜んで着てくれる。
そんなデザイナーになりたいって思ってたから、すごく嬉しかった。
矢崎も兵頭も、この二人の服を着た女の子たちもまだモデル姿のままだったから、小島さんと二人で撮ってからみんなで集まって写真を撮った。

「このドレスって、やっぱり彼女のために作ったの?」
「いいや、妹のため」
「そっか。妹さんがいるんだね。きっと可愛い子なんだよね」
「…まあな」

いつか美弥が喜んで着てくれるように、いろんな作品を作ろう。手間がかかっても、大変でも、たくさん作ろう。
そう思った。

 

 

ショーが終わった後は風呂に入ってから打ち上げがあった。ショーをやった会場が片付けられて、その半分のスペースに立食の酒や食事が出されてた。あとの半分はダンススペースにするみたいで、DJブースも出来てた。
NちんがDJやるそうだ。
みんないつもよりずっとオシャレして、食ったり飲んだり踊ったり。
オレはいつもと変わらないTシャツとジーンズ。Tシャツは直江がスタイリストに選んで貰って買ってきたという、今年イチオシのデザイナーズTシャツ。シンプルな図柄で気に入ってる。

矢崎と兵頭と3人でまずは食事に手を付けた。冷めててあんまり美味そうじゃないけど、これを食っておかないと明日の朝まで食事はない。
皿にから揚げとポテトとパスタを乗せて、会場の隅っこに置かれた椅子に座って食った。近くのテーブルに酒があって、四国出身酒豪の兵頭はさっそくビールを飲み出した。
何回か皿に食い物を乗せに行って満腹になったころ、じゃあオレも、と、ワインを貰ってきて飲んだ。矢崎は踊りに行ったから
兵頭と二人で飲んでたら、小島さんのグループが来て小さい宴会みたくなった。
今日のショーのことや、夏休みの出来事、これからの予定なんかが話題だ。

「仰木くん、日焼けしたけどどこか行ったの?」
「海行った」

直江と。泳がなかったけど、海岸で水遊び程度はしてた。あの直江が水遊びするとは思わなかったな。

「他になんかする予定は?」
「えーと、実家に帰るぐらいかな〜。けど東京に残るのもいいかなとも思うんだ」
「彼女がいるからでしょ?」
「…まあ、そうとも言う…」

小島さんをはじめ、女の子たちに冷やかされて照れた。オレの彼女の話題になると食いつきがいいのはなぜだ?

「兵頭くんは?」
「俺?俺はバイトがあるから実家には帰らない。バイクで遊びには行くつもりだけどまだどこに行くか決めてないな」
「ツーリングってやつ?」
「そう。山とか海とか、バイク仲間と行こうかって話してるところ」

いいなあ。兵頭はバイク持ってるんだよな。オレも売らなきゃ良かった。

「ねえねえ、みんなで海行かない?平日だったら海水浴場も空いてるよ。一泊ぐらいでどうかな」

オレの知らない子が提案してきた。なぜだか小島さんに目配せして。

「どう?仰木くん」
「いや、オレは……」

そんなの直江に怒られる。

「彼女と行くから」
「残念〜」

それでその話は終わり。あとはみんなガンガン飲んで酔っ払ってた。踊りに行くのもいれば、そのままオレたちと一緒に喋り続けてるのもいるし、後から仲間に入ってきたのもいた。
会場は深夜12時まで使えるんだけど、オレは酒が入ったせいか10時ぐらいに眠くなってきて、ひとりで部屋に戻った。
布団を出すのがやっとぐらい酔って、着替えないで寝た。フワフワしてて気持ちがいい。直江に電話しなきゃなーって思いながら、眠気に耐え切れずに寝てしまった。

 

 

額にチューされた感触で感覚が戻ってきた。直江に髪を梳かれながらチューされるのが好きだ。気持ちいい。

「んー…」

腕を伸ばして抱きついて、ほっぺにスリスリ。たまに無精ひげが残ってる時はザリザリしてて痛いけど、今日の直江はスベスベしてて気持ちいい。

「仰木…」
「え?」

なんで直江がそんな呼び方するんだ?高耶さんて呼んでくれなきゃイヤだ。

「なお…」

目を開けて驚いた。直江じゃない。兵頭だ。
声も出ないまま兵頭の顔を見てた。こういう表情は何て言うんだろう?切ない?悲しい?苦しい?…たまに直江もこんな顔する。
あなたが愛しくて苦しいって、そう言う時の顔。

「…俺、やっぱり…」

ダメだ。それ以上言うな。

兵頭は覆いかぶさってきて、唇にキスしようとした。絶対イヤだ。直江じゃないヤツとなんかチューできない。

「やめ…ろ」

何度も迫る唇を避けながらもがいた。兵頭をどうにか押しのけようと腕に力を込めてずっともがいた。
誰もこのまま戻って来なかったら?NちんはDJやってるから絶対に遅い。矢崎もきっと一緒にいるはず。
戻ってこなかったら?
オレの力が弱くて、負けたら?

「なんで俺がおまえを好きだってわかってるくせに、平気でタチバナの話なんかするんだよ」

だってそれは…

「嫉妬しないとでも思ってたのか?」

服の中に手が忍び込んでくる。直江にしか触らせたことないのに。

「イヤだ…!」

 

ツヅク


                           

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ああ!高耶さん、どうなってしまうの?!