同じ世界で一緒に歩こう 25 |
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「ただいま」 マンションの外から自分の部屋の窓を見たら灯りが点いていた。だから高耶さんが来ているのだろうと思っていつものように 「ただいま、高耶さん?」 リビングまで行くと高耶さんが床に座り込んでテレビを見ていた。画面には映画のエンドロールが流れている。 「高耶さん」 振り返った彼は鼻と目を真っ赤にして泣いていた。 「どうしたんですか!何があったんです!誰に泣かされたんですか!」 彼のそばへ寄ると抱きつかれた。どうしたんだ、一体。俺は高耶さんを抱きながら頭を撫でてやった。 「どうしたの?」 聞けば悲しい映画をレンタルしたDVDで見たせいで泣いたというのだ。なんて感受性が豊かで可愛らしい人なのだろうか。 「もう大丈夫ですか?」 ようやくおかえりのチューをしてもらってどんな映画を見ていたのか聞いた。子供が出てくるヒューマンドラマだそうで、主人公が重い病気にかかって死んでしまい、その親友の知恵遅れの少年が彼からもらった勇気を支えにこれからも生きていく、というベタベタだがだいぶ感動する映画だったそうだ。 「ダメ!」 慌てて袋を奪われた。 「……なぜです」 怪しい……俺の嗅覚を侮ってはいけませんよ、高耶さん。 「いいから見せなさい」 立ち上がって無関心を装いながら寝室へ向かった。高耶さんは「その代わり」の後の言葉が気になって仕方がないらしく、俺を追いかけてきた。 「なんだよ!言いかけてやめるなよ!気になるだろ!」 汗ばんだシャツを脱いで、クローゼットから洗いざらしのTシャツを出して着替えた。そしてリビングに向かう。 「見ていいよ」 ふて腐れながらその袋を指差し、高耶さんは小さくなってソファに座った。俺を注視したまま。 「これって……」 プイと横を向いて視線を逸らす。俺はその場で立ったまま呆然としてしまった。 「なぜ……」 半分怒鳴りながらの高耶さんが言うことには。 「今日学校の友達とマックで話してたらエロい話になったんだよ。んで、みんな女のアレはどうだとか、おっぱいはどうだとか そういうことか。兵頭は憎いが高耶さんのためにやった事なら大目に見るか。 「今までは抜くだけのために見てたけど、今回はちゃんと見ておかないとマズイの!」 俺とエッチしてるのにこんなもので抜かれていたら立場がなくなる所だった。 「それで、こっそり見たんですか?」 こんなもの!もし高耶さんが不埒な思いを抱いてコレで抜いたら、と思うと嫉妬でレンタルビデオショップに放火しそうだ。 「だからダメだってば!学校の友達にまた色々聞かれたら困るんだって!」 口を尖らせて目をギュッと瞑り、耳を塞ぎ、頭を振る。 「すいません。そんな話しませんからこっちを向いてください」 どうしろと言われましても……とにかく高耶さんがAVであれ、官能小説であれ、なんであったとしても俺以外の人間でそんなことをして欲しくはない。 「一緒に、見ますか?」 高耶さんはそのままソファで丸まって考え込んでしまった。夕飯も作らずに。俺はその横で大人しく待っているだけだ。 「あ、腹減ってんのか。ごめんな。今から作るから」 その日はもうDVDの事は忘れ、いつものように楽しく夕飯を食べ、お泊りモードの高耶さんに風呂をすすめ、ソファでイチャイチャした後にベッドでもイチャイチャして、ハッピーラブラブタイム、略してHLLTを過ごした。 ……というのは嘘だ!高耶さんは夕飯の時も、たぶん風呂の中でもAVのことを考えていたようだ。しかも定番のソファでイチャイチャだってさせてくれなかった!チューも心ここに在らずで、可愛らしい赤い舌は動かないまま! 「何やってんの?」 …………それはないでしょう、高耶さん!!今夜は金曜なんですよ!!あなたがゆっくりと泊まれる日なんですよ!! 「直江?」 うるさい?!うるさいって何ですか?!私は5月の蝿ですか?! 「高耶さん!」 こんな高耶さんは嫌いだ。エッチはしたいがこんな高耶さんを抱く気に誰がなれると思っているんだ! 「もういいです。しませんよ。諦めます」 そうして俺は枕に顔を埋めて涙を隠し眠ったのだ。
翌朝。 「見ていいですよ」 俺からそんなセリフが出るとは思わなかったのか、高耶さんは驚いて目玉焼きを食べていた手を止めた。 「なんで?昨日はあんなにダメダメって言ってたのに」 俺はこれから仕事で出かける。その間に見ればいい。俺がいない間に見て、勉強しようが抜こうが好きにしてもらって、でも 「……では、行ってきます」 玄関のドアノブを握ると高耶さんが呼び止めた。 「なんですか?」 涙が出そうになった。高耶さんがキスをしてくれるのが嬉しい反面、俺が出かけたらこの人はAVを見てしまうのかという悔しさとで。 「今日は出来ません……でも頑張ってきます!あなたに立派だと言われるような仕事をしてきます!すいません!」 唖然とする高耶さんを置いて、マンションを飛び出した。
「何を拗ねてるんだかな……」 仕事で出かけた直江を送り出してから、まずは洗濯機を回した。直江の服とオレの服が絡まりながら洗濯槽を回る。 おっとその間に掃除をしちまおう。今日はリビングと寝室だけでいいや。あとは明日だな。風呂掃除は明日直江にやらせよう。 もう昨日はあいつが「私の体験談を話します」なんて言うもんだから、AVのことよりそっちが気になって超悩んじゃったよ。 考え出したらイヤでイヤでしょうがなかった。でも今はオレを愛してくれてるからって思い込もうとしてたんだ。でもやっぱ切なくて、悔しくて、直江が何をしてきても反応できなかった。 そうやってイヤな事ばっかり考えてたせいか真夜中に目が覚めた。そしたら直江がオレを抱えながら寝てたんだ。顔を見たら突然、涙をツツーって流しやがった。 でも一応AVは見るぞ。だってまた友達に聞かれて答えらんなかったらヤバいもん。けど抜かない。
ツヅク
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健全な男子は見てあたりまえだ。 |
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