同じ世界で一緒に歩こう

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バカ対決


 
   

 


俺の名前は兵頭隼人。21歳、学生だ。当たり前だが独身だ。
俺の好きなものはバイクと洋服、焼酎、船だ。
嫌いなものはうるさい女とアスパラガスとテキスタイルの授業と、それに、タチバナヨシアキ。

 

 

俺には夢があった。一年前までの夢はバイクでアメリカ横断、船で世界一周、デザイナーになってバイカーズファッションを
男だけでなく、女にも浸透させることだった。
しかし半年前、もう一個付け加えられた。
それは可愛いあの子と幸せな暮らしを一生涯送る、というものだ。

可愛いあの子にマジで恋した5秒後に、俺の夢は打ち砕かれた。可愛いあの子には彼女がいるというのだ。
そう、俺は真性のゲイだ。そして可愛いあの子はストレート。
そんな夢は叶いっこないと諦めた数ヵ月後、少しだけ夢が復活した。
なんと可愛いあの子が付き合っているのは彼女ではなく、彼氏だったのだ。
だとしたら可愛いあの子が俺と付き合う可能性もなきしもあらず。
俺は可愛いあの子にアタックをした。

ところが、あの子はどうしてもどうしてもどうしても!!あのスカしたモデル男がいいと言い張る。それがタチバナ。
2年間、アパレルで販売員をしていた俺は知っている。タチバナといえば世界中のアパレル業界で知らぬ者はモグリだとまで言われるほどのトップモデルで、国内はもちろん海外の大きなファッションショーからもオファーがかかる有名なやつだ。

そいつとあの子は付き合っている。
聞けば俺が行く予定だった横浜でのファッションショーでモデルとフィッターとして出会ったと言う。ああ、あの時、俺がバイクでコケて捻挫さえしていなければ!今頃は俺の可愛いベイビーになってくれていたかも知れないのに!

可愛いあの子は、仰木高耶。
現在、タチバナの最愛の人であり、恋人であり、そして何よりそのタチバナが仕事を減らしてまで一緒にいたいと思わせるほどの魅力的な……男の子だ。(年上目線)

 

 

 

「うわ、なにこれ、新作?!」

仰木は何度か失態をやらかした俺にも優しく接してくれている。何度も俺を振っておきながら、それでも友達でいたいと言ってくれる本当に優しくて心の広いいいヤツだ。(盲目)
今日はアルバイトで同じ職場にいる。

「すっげー!かっこいいな!」

バイカーのために作られた丈夫で実用的なブーツを見ながら仰木がはしゃいでいる。貧乏学生の俺たちにはとても買えない値段のブーツを持ち上げて、しげしげと眺めて、それから試着、とか言って履いてみせている。
とても似合うが仰木には絶対に買えない値段だ。
しかしあいつだったら買えるのだろう。ポンと。何度かこの店で売られている品物をあいつはポンと買って行った。
それらはたまに仰木の腕に嵌まっていたり(ブレスレット)仰木のカバンの中に入っていたり(財布)上半身を覆っていたり(Tシャツ)下半身を覆っていたり(皮パン)する。

「高耶さん」
「あ、なおえ〜!」

なおえ、というのはタチバナの本名だそうで、そう呼ぶのは極めて親しい間柄の人間でしかない。
仰木はその直江が、いやなんで俺が直江なんて言わなければいけないんだ、タチバナでいいじゃないか、あんなヤツ。
そのタチバナが店に来ると必ずトロトロのハチミツみたいな笑顔をして近寄っていく。ちょっとだけ頬を染めて。
一方、タチバナは仰木の姿を見つけたとたんにダルダルの溶けたバターみたいな顔になる。可愛くもなんともない笑顔だ。

「そのブーツ、どうしたんですか?」
「新作だってさ。かっこいいよな」
「欲しい?」
「いらない。ちょっとオレのイメージとは違うような気がするから」
「そうですか?」

ここで仰木が「うん」と言おうものならタチバナは財布を開けてゴールドだかプラチナだかカードで購入決定だ。
金持ちではあるが、だから何だと言うのだ。仰木を好きな気持ちはおまえには負けてないぞ。

「なあなあ、これから仕事?」
「いえ、もう終わりました。帰りは一緒に帰りましょうね」
「うん!」
「隣りの喫茶店で待ってますよ」

隣りには雰囲気のいい落ち着いた喫茶店があり、そこは渋谷という人だらけの街なのに妙に空いていて、しかもコーヒーが美味い。
最近はそこが二人の待ち合わせの場所になっている。

「おや、兵頭くん、いらしたんですか」
「こんにちは」

一応客なので丁寧に挨拶をする。
いらしたんですか?じゃねえよ。いたよ。おまえが入ってくるずっと前から仰木とここにいたんだよ。
何が「おや?」だ。さっきから仰木の横2メートル脇にいたじゃねーかよ。

「いつも高耶さんがお世話になってますね」
「いえ、そんなことは」
「高耶さんから伺ってますよ。合宿でも色々と」
「直江!」

おっかない顔して仰木が止めた。そうか、タチバナは俺が合宿先のホテルで仰木に襲い掛かろうとしたのを知っているのか。
そんな事まで素直にタチバナに話す仰木だからこそ、俺が好きになった理由でもあるが…まずいな。

「その話はもうしないって約束しただろッ」
「すいません…」

口ではこう言っているが、仰木に見せる気弱な眼と、俺に向ける攻撃的な眼の違いはなんなんだ。猫かぶりやがって。

「悪いな、兵頭。こいつバカだから」
「いいって」

そりゃバカだろうよ。言うなれば親バカならぬ『仰木バカ』だ。

「今日はどうします?泊まりますか?」

俺に聞こえるか聞こえないか微妙なトーンでタチバナが仰木に尋ねる。聞こえてる、いつも。タチバナは俺に聞こえるように、しかし仰木にはそうと悟らせないよう巧妙に声を抑えてこの言葉を仰木に言う。
そしてたまに、言いながら仰木の耳を触る。
耳を触られた仰木は、いつものようなほんのり薄桃色に染まった頬ではなく、真っ赤になるのが常だ。

「うん…」
「そう、良かった」

俺の予想でしかないが耳を触るのは今夜セックスしますか?って意味だと思う。それに「うん」と答えるから真っ赤になるんだと思う。
それを俺の目の前でやっているのは、そのサインに俺が気付いているのをタチバナがわかっているからだろう。

「もう行けよ。バイト終わったらオレもすぐ行くから」
「わかりましたよ。行きます。待ってますから早目にお願いしますよ?」
「うん」

いつもこんな感じだ。甘やかすタチバナ。甘える仰木。
本人たちはどう思っているかは知らないが、他人から見たら甘甘のバカップルだ。
それにしても仰木も仰木だ。俺がまだ好きだってことわかってるだろうに、タチバナとの仲を見せ付けるんだからな。
もう何度同じ相手に失恋していることか!隼人、ガックリだ。

モデルでしか有り得ない整った体躯を翻して、タチバナは去って行った。仰木はその姿を最後まで目に焼き付ける。
そして残りの仕事をウキウキしながらこなし、時間が来ると一番乗りでタイムカードを押して駆け足で出て行く。
なあ、俺の入る隙間は1ミリもないのかよ。ああ、憎い。タチバナが憎い!

 

 

「おまえってマジで意地悪いよな」

タクシーで渋谷から赤坂へ出て、少しだけ酒を飲みつつ食事をしてからマンションに戻った。
高耶さんは荷物をリビングの隅に置いて、キッチンでほうじ茶を淹れて夫婦湯呑で出す。それをフーフーと冷ましながらリビングのソファで飲んでいる。

「そうですか?どこらへんが?」
「兵頭に見せ付けるためにしたくせに」
「ああ、それですか。当たり前でしょう。あの男はまだあなたに未練があるようですからね。しっかりとあなたが私のものだって
わからせてやるしかないんです」
「もうわかってると思うけど」

甘いのだ、高耶さんは!
兵頭は100%わかっているだろう。しかし未練とはそう簡単に断ち切れるものではない。しかも兵頭が惚れているのは高耶さん!
世界一魅力的で、世界一可愛らしくて、世界一優しい高耶さんだ!(世界一恐ろしい一面もあるが)
俺だったら絶対に、一生かかっても未練を断ち切るなどできない!例え死んでも無理ったら無理なのだ!

「高耶さん」
「んー?」
「俺のこと、どのぐらい愛してますか?」
「は?」

今まで何度も聞いた質問に彼は呆れたように眉を寄せる。
でも聞きたいんです!高耶さん!

「どのぐらいですか?!教えてください!」
「どのぐらいって言われてもなあ…」
「海よりも深く?!」
「うん」
「空よりも高く?!」
「うん」
「あっちのクエーサーとこっちのクエーサーの間よりも広く?!」
「うん…て、エイサー?って沖縄の?」

高耶さんにこの質問は高度すぎたか。

「クエーサーです。宇宙の初期の天体のことです。もし宇宙に端っこがあるとしたらその目印ですよ」
「てことは?あっちのクエーサーとこっちのクエーサーってことは?宇宙の端っこと端っこの間の広さぐらいってこと?」
「そうです!」
「……直江は?」
「もちろんそれ以上に愛してますよ!」
「じゃ、直江と同じくらい愛してるぞ」
「高耶さ〜ん!」

ザマアミロ、兵頭!俺は高耶さんにこんなにも愛されてるんだ!おまえなどは高耶さんの中ではミジンコ程度だろうさ!

「あ、っと」

抱きしめた瞬間、高耶さんの携帯電話から「メールですよ」という声が聞こえた。これは某声優の声だそうだ。俺の声にソックリだということでどこかの携帯サイトから引っ張ってきた着声らしい。その声優、いつか会ったら殺してやる。いくら俺の声に似ているとはいえ高耶さんに気に入られるなどなんたる僭越!

俺から離れて携帯を取り出した高耶さんは、ボタンをポチポチ押して画面を出して読み始めた。

「かはっ」

なんとも爽やかな笑顔でそのメールを読んでいる。そして返信。
高耶さん…どこの誰とそんなに楽しそうにメールしてるんですか!!

「誰ですか?」
「んー、兵頭」

あ・の・ヤ・ロ・ウ!
俺と高耶さんが一緒にいるのを知っててメールして来ているとは迷惑千万!
図々しいにもほどがある!はなはだ遺憾だ!声優共々殺してくれよう、ホトトギス!

「何ですって?」
「バイトの帰りに社員の人たちと飲んでるんだって。社員にさ、明るい酒乱の人がいて、居酒屋でいきなり裸踊りを始めたらしくてさ〜、全員揃って追い出されたんだと。ほら、見るか?裸踊りの写メール」
「結構です」

なぜ汚い男の裸なんぞを見なくてはいけないのだ!目が腐る!俺が見たい裸は高耶さんだけだ!

「あ〜、おっかしい」
「そうですか、そうですか」
「拗ねてる?」
「拗ねますよ、当然でしょう?あなたが愛しくて抱きしめたのに、そんなメールで邪魔されて、しかも相手は兵頭。あなたは私に抱きしめられているにも関わらず、裸踊りの写真なんかで笑ってる。拗ねなくてどうするんですか」
「ゴメン、ゴメン!じゃあもう電源切るから!な?二人っきりの時間を大事にしたいもんな」
「そ…そうですかあ?」

小憎らしいほど可愛い高耶さん。携帯の電源を切って俺の隣りに座りなおし、ペタッとくっついて甘える仕草をする。
いつも素敵すぎます!あなたのその行動には愛が溢れ返っているじゃないですか!

「今日は一回もチューしてなくない?」
「してませんね」
「何回する?」
「何回がいいですか?」
「少なくとも100回はしてくれなきゃヤダ」

たとえこの言葉が嘘であっても、俺はそれでもいいんです!どうしてだと思います?それはあなたが望んだ100回よりも、
もっともっとたくさんするからです!

「100回じゃ足りないでしょう?」

有言実行。さっそく高耶さんの赤い唇にキスをした。クスクスと笑いながらするキスは、あなたが自信を持って俺を愛してい
ることの表れで。その気持ちに微塵も疑いを持っていなくて。俺にはもったいないほどの美しい愛情を注いでくれている証拠で。
だからって高耶さんを他の誰かに渡す気など素粒子ほども持っていないが。

「愛してますよ、あなただけを」
「うん。オレも、直江だけ」
「あなたの愛情と、私の愛情と、対決させたらどっちが勝つと思う?」
「オレかな?」

直江だろ、と言われるのを覚悟して聞いてみたのに!!あなたという人は!!
それは相当、愛されていることになるが…それでいいんですか、高耶さん!なんて!なんて幸せなんだ!

「俺だって負けませんからね」
「じゃあ引き分け?」
「いえ、私の勝ちのはずです!」
「そんなことないってば!」
「私です!」
「オレだ!」

言い争いになったがやはりそこは原因が原因なわけで、お互いにハタと気が付いて大笑いして抱き合った。
優しくて温かい高耶さんの腕に抱かれ、この世でかけがえのない高耶さんという人を大切に抱き、二人の幸せを実感する。
桃色に染まった高耶さんの頬にキスをすると、猫のように目を細めて俺を見つめた。

「先に風呂入る?」
「え?」

高耶さんの小悪魔が発動したらしい。扇情的に俺を見上げ、右手をシャツの中に忍び込ませ、中指で俺の背骨をツツイとなぞる。
ゾクゾクした感覚が脇腹から頭まで駆け上る。

「一緒に入るか?」
「そ…それは勘弁してください…」

先日、ぶくぶくエッチを経験させていただいたが、明るいバスルームで高耶さんの裸を見て俺は鼻血を出したのだ。
興奮しすぎた。
入浴シーンなど一度も見せてもらえなかったから、興奮と湯あたりが同時に起こり、イク寸前で鼻血を噴き出した。
今でも覚えている。高耶さんの背中に俺の鼻血が滴った画面を。だが根性でそのままイかせてもらった。

「せっかく誘ってやったのに!」
「また鼻血出ちゃいます」
「んー、じゃあ、エッチなしで一緒に風呂入ろう?」
「…そこまでおっしゃるなら…」

男・直江信綱、今回は必死で鼻血を抑えます。

 

 

今頃はきっとタチバナの家でラブラブな時間を過ごしているだろう、と思ってわざとメールを出してみた。
返事はちゃんと来たがとても短く「ちょー可笑しい」で終わっていた。いつもだったらもう少し気を使った返事なのに、今夜は
タチバナとの逢瀬のせいで短くてつまらない返事だった。くそ忌々しい。
今頃はもう一緒に風呂でも入って、エロいことでもしてるんじゃないだろうか。

 

「あ〜あ、また鼻血か〜」

面目躍如、今度こそは鼻血は出さないと誓ったのに、また噴出してしまいました。
ベッドの中とは違う高耶さんの濡れた体、火照った顔、艶やかな肌、明るいライトの中でそれを見た瞬間、もう頭に血が上った。
エッチなことは何一つしなかったにも関わらずだ。

「すいません…」

リビングのソファに寝かされて、氷水で冷たくしたタオルを顔に乗せてもらった。鼻血はどうにか収まり、あとは興奮して上がってしまった血圧を下げるかのように頭を冷やさなければならない。

「もうオレと風呂入るのやめたほうがいいかもな」
「ですね…」
「それ、マジで言ってる?」
「…半分はマジです」

半分は入りたい。とても。高耶さん風に言うとちょー入りたい。
なのに俺の体は熱気と高耶さんのセクシーな姿に当てられて、時速どころか光速で興奮してしまう。ここまで情けない自分に腹が立つ。
その情けない姿を見られるというのはたいしたショックで、嫌われないかとそればかり考える。

「なあ、なんでベッドだと余裕なのに、風呂だとそんなんなるわけ?」
「…余裕なんかいつもありませんよ…知ってるくせに」
「え〜。直江はいつも余裕なんだと思ってた。そっか、けっこう可愛いとこあるじゃん」
「可愛くなんかないでしょう…みっともない。鼻血ですよ?思春期の若造じゃあるまいし…」

そう言うと高耶さんはケタケタと笑い出した。ケラケラではなくケタケタだ。

「いいじゃん、いいじゃん。思春期の若造みたいでも。オレはちょっと嬉しかったりするんだから」
「嬉しい?なぜ?」
「それだけ好きってことだろ?鼻血出ちゃうぐらい好きってことなんじゃねーの?」

確かにそうだ。今まで女で興奮して鼻血など出したことは一度もない。高耶さんだからこそこうなるのだ。
そう考えれば自分がどのぐらい高耶さんを愛しているかを実感できた出来事として捉えられるからいいのではないだろうか。

「そろそろ平気?」
「はあ…たぶん」
「元気出せよ。そんくらいのことでおまえを嫌いになったりしないからさ」
「はい」

うう、いい子だ。なんていい子なんだろう!今度は涙が出てきてしまうではないか!

「なおえ?」
「はい?」
「寝る?」
「………はい!!」

勢いよく返事をした俺に、高耶さんは小さなキスをして手を取ってベッドルームへいざなった。

 

 

切ない。
兵頭隼人、こんなに切ない思いをしたのは生まれて初めてだ。
ニッコリ笑う仰木の写真を眺めながら、少しだけ酔った頭で考える。今頃タチバナは仰木を強引にベッドに引きずり込んで、
いやらしいことを仕込んでいるに違いない。

仰木。去年の夏までは全然目にも入らないぐらい地味で、その存在すら知らなかったぐらいだが秋を過ぎたあたりから妙に
俺の目に入ってくるようになった。
休憩所で矢崎たちと談笑している姿を、帰り道でぼんやり歩く姿を、教務室でなにやら手伝っている姿を。
専門学校2年目になって同じクラスになった瞬間、俺の目は仰木に釘付けになっていた。首筋のライン、笑うと幼い顔、しなやかに伸びた手足、艶やかな黒髪、どれを取っても清潔で、凛々しく、かつセクシーだった。
そんな仰木に仕立て上げたのがタチバナなのだろう。悔しいがそれは認めざるを得ない。

だからきっと今頃は…ああ、考えたくない!考えたくないが!!
タチバナのアレがあーんなことやこーんなことを仰木にしているのかと思うと!
それで仰木はあーなってこーなって、最終的には「もう無理」とか言ってぐったり寝てしまうのではないか?!
許せん、タチバナ…。

 

「もう…無理…」
「そんなあ」
「無理ですって、高耶さん…」

忘れていた。高耶さんが積極的な日は俺ですら降参してしまうほどスゴイことを。

「まだまだ足りないのに」
「足りてください…自給自足でもいいから足りてください…」
「そんなのヤダ」

体力は若者には負けないと思っていたのだが、20歳・性欲真っ盛りの高耶さんと、連日ハードな仕事をこなしてできるだけ毎週の土日に休みをもぎ取っている俺では今夜の負けは確実だ。
明日なら「もう無理」を高耶さんに言わせる自信があるのに!

「じゃあもう一回だけ。そしたら大人しく寝るからさ」
「…かないませんよ、あなたには」

楽しそうに笑って高耶さんはキスをしてきた。高耶さんが笑いながらキスする時は「優しくしてね」って意味だ。
ゆっくりでいいから、無理しなくていいから、そういう可愛らしいエッチを望んでいる。
お言葉に甘えてデザートのようなエッチをさせてもらった。

 

 

きっと今頃、タチバナは仰木に「もう降参ですか?」なんて言いながら激しく腰を使っていることだろう。
この先、もしもタチバナと仰木が別れるようなことになった時、俺は仰木を満足させてやることができるのだろうか?
百戦錬磨のタチバナのように(俺の想像だが)うまく誘って、翻弄させて、仰木を甘い気分にさせてやることができるのだろうか?
いや、俺は俺のオリジナリティで勝負だ!
タチバナがどんな愛し方をしてようが、いつか仰木を振り向かせて、その時には俺の虜にしてしまえるほどの愛情でカバー
だ!!
負けるもんか!タチバナ!!
今に泣きっ面させてやるぞ!

 

「高耶さん
「なおえ
「愛してますよ、ずっと、永遠に」
「うん。オレも。直江と離れるなんて考えられない」

いつまでも、生まれ変わっても、一緒にいようと指切りをした。

 

 

「おや、兵頭くん、いたんですか?」
「いましたよ」

今日も俺の嫌いなタチバナがバイト先にやってきて、仰木を独り占めして店内を回っている。
今朝入荷した皮のウェストバッグを見つけて仰木に話しかけた。

「これ、高耶さんの好みでしょう?」
「うん、よくわかったな」
「欲しいって顔に書いてありますよ」
「え!マジで?!」
「プレゼントしましょうか」
「…自分で買うからいい」

いつも仰木はそう断るのだが、最終的にタチバナが言いくるめて買ってしまう。
昨日のお詫びですよ(なんのだ!)とか、今度のお出かけにどうですか(デートだろ!)とか、すぐ売れちゃいそうですね(タチバナが言うものは本当にすぐ売り切れるから腹が立つ!)とか、仰木をうまいこと操縦して買い与える。
仰木も最初は遠慮するわりに、買ってもらったものは必ず学校に持ってきたり、着て来たりする。まさに肌身離さずってやつだ。

「じゃあコレで」

いつものようにプラチナカードだ。
破産しやがれ、タチバナ〜〜〜〜!!!

いつか!いつかおまえから仰木を奪ってやるその日を楽しみにしてるがいい!!
落ちるまで待とう、ホトトギス!!!だ!!!

 

 

「も〜。だから兵頭は友達で、オレはなんとも思ってないんだってば。いい加減に対抗意識ヤメロよな」
「…高耶さんがそうおっしゃるなら…」
「直江だけ、好きだから
「はい

 

END



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あとがき

とうとうひょーどーがギャグに!
ヤバイ!ここまで頭がギャグになって
きてるとわ!
今回は高耶さんVS直江、
兵頭VS直江という図式が
成り立っております。
全員ただのおバカさん。