同じ世界で一緒に歩こう

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休日家族

その1

 
         
   

ちょい前に入院した時に弟が来た。
初対面だったけど人見知りしない人懐っこい子で「お兄ちゃん、お兄ちゃん」と楽しそうにたくさん話しかけてくれた。母さんが高齢ってこともあって一人っ子だから、兄弟が欲しかったらしい。
美弥にはもう何度も会ってて、やっぱり同じように「お姉ちゃん」て懐いてるらしい。
すっげー可愛かった。年齢が離れてる弟ってのはこんなに可愛いもんか。

もしかして直江もオレに対してそうゆう愛情を持ってるのかもしれない。つーわけで聞いてみた。

「直江ってさ、オレに対して弟ってゆー感情はあんの?」
「ありません」
「ちっとも?」
「ええ、ちっとも」

どこの誰が弟に対して恋愛感情なんか持つものですか、と言われてしまった。
そうか、まったくないんだ。

「あなたは私の恋人ですからね」
「そりゃそうだけどな。直江のお兄さんはいくつ違うんだっけ?」
「高耶さんのところと同じで12歳違います。干支が同じです」
「だったらお兄さんもさ、オレが俊介を可愛いって思うみたく、直江を可愛いって思ってんのかな」
「……さあ……」

言葉を濁した直江。もしかして、ものすっごい可愛がられてるんじゃないのか?お兄さんに限らず、下のお兄さんも、お姉さんも。
そう言ったら複雑な顔をした。

「長兄と次兄は……確かに私を甘やかしていたとは思いますが、姉はどうだか……」
「お姉さんて、どんな人?」
「……一言で言えば、怖い人です」
「怖いのか?」
「ええ……」

そう言って黙ってしまった。よっぽど怖いお姉さんなのかな?横浜に行った時に直江に中国茶を買わせてたぐらいだから、直江が頭上がらないのはわかるけど。
そこで電話がかかってきた。オレの携帯だ。

「もしもし?あ、母さん。何?え?俊介が東京にいるって?!なんで?!」

今日は土曜。学校が終わって帰ってきたところで俊介がお兄ちゃんに会いたいと言い出したそうだ。
なんでも学校でお兄ちゃんがいるって言ったら嘘つき呼ばわりされて、証拠写真を撮りたいって言い出した。
急にそんなことを言い出して「ワガママ言わないのよ!」と叱ったら知らないうちにいなくなってて、さっき東京駅から俊介を保護してるって電話があったそうだ。お年玉貯金を使ってひとりでチケットを買って来たらしい。
で、母さんが迎えに行くのに時間がかかるから、とりあえずオレに預かって欲しいってことだ。

「わかった、行ってくる。あ、あのさ、明日になったら新幹線に乗せて帰すから母さんは来なくていいよ。新幹線に乗せたら電話するから、駅まで迎えに来てやって」

せっかくオレに会いに来たのに、すぐに母さんに連れられて帰るのは可哀想だ。
そんなわけでオレは直江に車を出させて東京駅まで迎えに行った。
俊介は全然寂しそうでもなく、罪の意識もまったくなくて、駅員に貰った電車のオモチャで遊んでいた。こうゆうとこは、オレの小さい頃にソックリだ。物怖じしないってゆーか。
でも一応叱っておく。

「俊介!母さんに黙って出てきたらダメだろ!」
「だってお母さんが行っちゃダメってゆーんだもん」
「冬休みになってから来ればいいんだよ」
「すぐ会いたかったんだもん」

全然、まったく悪びれてない。これがオレの弟か。さすがだ。

「高耶さん、とりあえず出ましょう。お母さんにも電話して安心させてあげましょうよ」
「ん、だな」

駅を出ながら母さんに電話をした。俊介を出してくれって言うから携帯を渡したんだけど、俊介は反省したみたいに謝るとすぐにオレに携帯を返して、また電車のオモチャで遊び始めた。なんつーガキだ。ふてぶてしい。
車の後部座席に俊介を乗せて、とりあえず直江のマンションに行くことにした。ウチは狭いし、寝かせる布団もないし。

「いいか?今から直江さんちに行くんだ。大人しくしないとすぐに新幹線に乗せて帰すからな」
「はーい」

運転席で直江がクスクス笑っている。そんなにオレがお兄ちゃんヅラしてるのが可笑しいのかな?

直江んちに着いてからオヤツにパンケーキを作ってやって食べさせていた。
とりあえず直江のデジカメでオレとのツーショットを撮って、プリントアウトして渡したから本来の目的は果たせたわけだ。

「俊介さん、お兄さんの作ったオヤツは美味しいでしょう?」
「うん!」
「優しいお兄さんがいて良かったですね」
「うん」

直江の野郎は俊介も自分の味方にしようと奮闘中だ。子供は好きでも嫌いでもないらしいけど、こうやって見てると親子みたい。
直江が父親か〜。……うーん、なんか直江の子供って考えると、絶対に変態くさい気がする……。

一緒にパンケーキを頬張っていると、マンションのエントランスからのインターフォンが鳴った。直江が出る。

「姉さん!どうしたんです、急に!」
「いいから開けなさい」

お姉さんの冴子さんが来た。
マズイ!!オレや俊介を見たらどう思われるんだ?!

「どうしよう、直江!」
「大丈夫です。いくら相手が怖い姉でも高耶さんを危機には晒しませんから。闘ってみせます」

闘うって……そこまで怖いのかよ、おまえのお姉さんは。
今度は玄関のインターフォンが鳴った。直江が玄関に行くと、二人の会話が聞こえてきた。

「ちょっと、この子たち預かってくれる?不幸があって急いで旦那の実家に行かなきゃいけないの。旦那はもう行ってるんだけど、この子たちを連れて行ける状況じゃないのよ。ね?お願いね」
「そんな急に言われても!」
「何?あたしに逆らう気?弟のくせに」
「ですが!」
「明日引き取りに来るから。最近は彼女のために土日は仕事しないって照広兄さんから聞いてるわよ。なんならその彼女に手伝ってもらいなさい。いいわね?わかったわね?」
「……はあ……しかし……」
「しかし?何よ?」
「いえ、何でもありません……」

直江って、お姉さんには逆らえないんだな……プクク。
それにしても子供って、二人いるって話だよな。何歳なんだろ?オレは預かってもいいけどさ。俊介のついでだ。

「直江さん、どしたんだろね?」
「さあな」

ドアが閉まる音がして、子供の足音が一人分聞こえた。それから直江の足音。
リビングに入って来た直江は足元に3歳ぐらいの女の子を纏わりつかせてる。めちゃくちゃ可愛い女の子だ。直江が男前だからお姉さんも美人に違いない。だとしたら女の子も大人になったら相当の美人になるぞ。
もうひとりは?と思ったら腕の中に眠る1歳ぐらいの赤ちゃんを抱いていた。

「ええ?!赤ちゃんだったのか?!」
「すいません……ああいう姉なんです……」
「ああいうって、おまえ、赤ん坊なんか扱えるのかよ」
「ちょっとは……。兄二人からもたまにこうして預かってましたから」

俊介は赤ちゃんが来たって目をキラキラさせて、直江の姪っ子はなぜか叔父さんの家にいるオレと俊介を不思議そうに見てる。
それから俊介とオレのパンケーキを見て食べたさそうにした。

「食べる?作ってやろっか?」

まずは食い物で釣ろう。
だけど恥ずかしがりやなのか、直江の後ろに隠れてオレをじっと睨んでる。

「ひなちゃん、ご挨拶してください。叔父さんのお友達の高耶さんですよ。それと、高耶さんの弟さんの俊介さんです」

直江が赤ちゃんをソファに寝かせてから、姪っ子のひなちゃんをダイニングに連れてきた。オドオドしながら挨拶をする。
可愛いな〜〜〜!!

「オヤツ、一緒に食べようか。な?こっちおいで」

手を取ってテーブルに座らせた。俊介が隣りを空けてそこに座らせる。うん、いい子たちだ!
パンケーキを手早く作って、メイプルシロップをたくさんかけて渡すと、行儀良くいただきますをしてから食べ始めた。

「ひなちゃんは何歳?」
「3歳」
「赤ちゃんは?男の子?女の子?」
「男の子。1歳」

珍しそうにひなちゃんを見てた俊介がほっぺに付いたシロップを拭ってやってる。子供同士だから仲良くなるのも早いかな?
直江はというとソファで寝てる赤ちゃんの隣りで頭を抱えてる。

「赤ちゃんの名前ってなんてゆーの?」

俊介が聞いた。いいぞ、うまいぞ、俊介!

「リョウくん」
「リョウくんて、歩ける?」
「まだ立っちしかできないよ」

う〜!すっげえいい!!子供ばっかりってゆーのもいいな〜!保父さんになったみたいだ!デザイナーじゃなかったら保父さんでも良かったかも!楽しい〜〜!!

「すいません、高耶さん……」
「いいって、いいって。こうゆうの好きだから。今日は童心に返って遊び倒してやる!」
「……そ、そうですか……」

オヤツを食べ終えた子供たちをリビングに来させて、オレの学校で使ってるクロッキー帳と色鉛筆を渡してお絵かきタイム。
さっきまで俊介はどこかに出かけたがってたんだけど、ひなちゃんが来たらもうメロメロで妹が出来たみたいにはしゃいで相手をしてる。
直江はリョウくんを抱っこしてソファでふてくされてる。

「どうしたんだよ」
「せっかくのあなたとの週末が」
「じゃあ、こうしよう?週末だけ、オレたちは夫婦で、こいつらは子供。明日の午前中は一緒に出かけて、家族気分を味わうってのは?」
「……その手がありましたか!!」
「な?いいだろ?」
「はい!!」

直江も立ち直ったことだし、あとで夕飯の買い物しに行くのが楽しみだな〜。

子供たちをリビングで遊ばせて、オレはリョウくんの哺乳瓶をキッチンで消毒してからミルクを作っていた。
そこに直江がやってきた。

「高耶さん」
「ん〜?」
「ちょっとだけ考えたんですが、もしかして今日はキスもなしになるんでしょうか?」
「見られないようにしたらいいじゃん、そんなの」
「じゃあ、今は?」

子供たちはソファの向こうにいて、ここからは見えない位置だ。そうだな。してやってもいいか。

「いいよ」

ちょっとだけチューして直江もミルク作りを手伝った。さすがに何度か預かってるだけあって手早い。
モデルやめて保育園でも始めたらいいんじゃないか?そしたら男前園長がいるってお母さんたちに評判の保育園になるに違いない。
んで、オレが保父さん。
……いや、ダメだ。そんな保育園なんか作ったら子供たちが変態になっちまう。オレはいいとしても、直江がどんな教育するかわかったもんじゃない。子供のくせに「高耶さんは今日も愛らしいですね」とか言い出す可能性大だ。

「直江、そのミルクあげててくれ。オレはひなちゃんと俊介と買い物してくっから」
「そんな!みんなで行きましょうよ!」
「だって怪しいぜ?モデルのタチバナが子供たくさん連れて歩いてるのなんか。しかもオレまでいるなんてさ」
「怪しくないですよ!いいじゃないですか!」
「う〜ん、しょうがねーなー。じゃあみんなで行くか」
「はい!!」

一番嬉しそうなのは直江だった。

 

 

直江にリョウくんを抱っこと、片手でひなちゃんの手を繋がせて近所の定番スーパー、ピーコックへ。
子供たちはオレを「お兄ちゃん」と呼ぶ。ひなちゃんが直江を「叔父ちゃん」て呼ぶから俊介もそう呼ぶようになった。
オレも面白半分に叔父さんて呼んでみたら渋〜い顔をされた。
どうやら周りには叔父さん&甥っ子たちって見られてるらしく(オレも含めて)いつもみたいな奇異な目を向けられることもなかった。

「直江、ひなちゃんとリョウくんはアレルギーとかあるか?」
「いいえ。まったくないそうですよ。姉が妊娠中に気を使って添加物や加工品を食べなかったおかげだそうです」
「へ〜。俊介は食べたらいけないものってあるのか?」
「ないよ。でも辛いものとかは嫌い」

オレと同じだ。だったらいつも作ってるのを子供用に多少アレンジすりゃいいか。
俊介の手を握ってピーコックに入り、メニューを考えながら直江が押すカートに入れていく。
結局カレーになった。子供用の甘いのを別鍋で作らないといけないってゆう面倒があるけど、せっかくだから子供の好きな
メニューにしてやりたい。
リョウくんにも雑炊みたいにして食べさせてあげればいい。

お菓子コーナーで俊介とひなちゃんがオマケ付きのお菓子を欲しがったから、ワガママ言える叔父さんのとこに泊まりに来た
ってことで直江に買わせた。
二人に可愛らしいお礼を言われたら直江がメロメロになって鼻の下を伸ばしてた。オレの時と同じぐらい伸びてた。

夕飯を作ってる間に直江がみんなの面倒を見てたんだけど、これがうまいんだな。やっぱ何度も子供を預かってたからか、子供が喜ぶツボを押さえてるみたいだ。
テレビの子供番組を見せながらひなちゃんをうまい具合に躍らせたり、歌わせたりして、ちょっと年かさの俊介には「お兄さん
らしくね」なんつってリョウくんを楽しませてやるように仕向ける。

で、夕飯だ。直江の子供の扱いに一番感心してしまった。
オレは先にリョウくんの離乳食を食べさせなくちゃいけなくて、やんちゃ盛りの二人を直江に任せることにしたんだ。
とりあえずオレはリョウくんを抱っこして座って、薄めのカレー雑炊を食べさせてた。

「今日はレストランにいるつもりでお行儀良く食べる練習っていうのはどうですか?」
「え〜」
「練習しておけばいつでも美味しいレストランに行けますからね」
「いいよ。やる!」
「ひなも!」

子供だらけの騒々しい食事っていうのをちょっと不安に思ってたオレは直江の提案をすごいと思った。
楽しませながら大人しく食べるって、よく考え付いたもんだ。
食べるものはカレーと小さいサラダだけなのに、直江は恭しくウェイターの真似をしながらママゴトみたく皿を出す。

「お皿が出たら静かに食べるのが基本です。少しならお喋りしてもいいんですが、騒いではいけません。お店の人に追い出されてしまいますからね。右手でスプーンを持って、左手は添える程度にお皿に。こうやってみて?」

直江も座って真似をさせる。二人は直江に倣って皿に手を添えて、スプーンを持つ。

「カレーは混ぜない方が見た目がいいんです。こうしてスプーンで真ん中らへんを一口分掬って、食べます」

直江を見ながら大人しく食べる。うまく一口分掬えないと次でそれを上手にやろうとしていくから、どんどん進んでいく。

「こう?」
「そうですよ。上手ですね」
「ひなもできたよ」
「ええ、これならもうどこへ行っても大丈夫です」

頭を撫でてやったり、口の周りを拭いてやったりしながら楽しそうに食べさせる。うまいもんだ。
だいたい20分ぐらいで食べ終わった。その頃には集中力が切れてきて、デザートのゼリーはたくさん喋らせながら食べさせてたけど、それでも直江はニコニコしながら相槌を打ったり、世話を焼きながらやってた。

「そーゆーの、どこで覚えたんだ?」
「義理の姉がやっていたのを真似しただけです」

全部食べ終わった子供たちを引き連れて、直江はリビングで遊ばせる。中心はリョウくんで立っちの練習だ。
オレはその間にカレーを食べた。

「じゃあ、お風呂に入りましょうか。ええと……高耶さんにはひなちゃんと俊介くんをお願いします。私は後でリョウくんを入れますから」
「うん」

なんか……本当に夫婦みたいだ。もし直江との間に子供ができたらこうなるんだろうな。
それは絶対にないことなんだ。だけどもうそんなことで落ち込んだりしない。
だから今のこの状況を楽しまなきゃ。3人も子供が出来たんだって思って。

小さい頃に親父と美弥と3人で入ったのを思い出して、オレも一緒になって遊びながらバスタイムを過ごした。
この前の入院で使った石鹸箱の蓋に濡れたタオルを張って、端っこから息を吹き込んで泡をカニみたく出したり、手で水鉄砲を作って俊介とひなちゃんにかけたり。
子供たちは当然大笑いしながらだったけど、オレも大笑いしながら遊んだ。
風呂から上がった二人に先にパジャマを着せて(ひなちゃんはパジャマ持参。なんと俊介も持参してた!)直江のいるリビングに行かせる。リビングから楽しそうな笑い声がしてるから、また直江が何かしてやってるんだろう。
オレが出ていくと直江がリョウくんを脱がせてバスタオルにくるんでた。

「すいません、高耶さん。ちょっと抱いててください」

リョウくんを預かると直江は浴室に行った。呼んだらリョウくんを連れてきてくれってことだ。
先に直江が体を洗ってから、リョウくんを洗うってわけ。

「高耶さーん」

ものすごい急いだらしく、10分程度で呼ばれた。バスタオルに包まれたリョウくんはジタバタとうるさかったけど、赤ちゃんは見てるだけで面白い。ジタバタしたまんま、浴室に連れていった。

「また呼びますから、そうしたらバスタオルでリョウくんを拭いて、リビングにある寝間着を着せてください」
「うん」

なんか頼れるお父さんみたい。こうゆう直江もかっこいいな。

 

ツヅク


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直江姪&甥の名前は仲良しサイトマスターさんから貰いました。