同じ世界で一緒に歩こう

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休日家族

その2

 
   

 


最初にひなちゃんがアクビをした。可愛い、小さなアクビだった。
そろそろ寝かせようか、って言い出そうとしたときに、部屋割りを決めてないのに気付いた。
和室にはすでに二人分の布団が敷いてある。

「どうする?」
「どうって……高耶さん……どうしましょう」
「んーと、じゃあ、オレと俊介で寝室使う。和室はひなちゃんとリョウくんと直江」
「ですよね……」

今までいいお父さんをやってたのに、急に寂しそうになった。
だってしょーがないじゃんか!子供と大人と分けて、夜中に何かあったらどうすんだ!

でかい男がリョウくんを潰したら大変だからひなちゃん側の端っこに寝かせた。すでにリョウくんはぐっすりだ。

「じゃあ、叔父さんたちはまだ起きてますから、何かあったらすぐにリビングかあっちの寝室に来てくださいね」
「はーい。ねえ、叔父さん、俊介くんも一緒がいい」
「俊介さんはあっちで高耶さんと一緒なんですよ」
「一緒がいい〜!」

どうしようか迷ったんだけど、俊介は年齢の割りにしっかりしてるからじゃあ一緒にしようかってことになった。
ひとりで新幹線乗るぐらいだからな……。
俊介もそうして欲しいみたいだ。お兄ちゃんとしては寂しいんだけどさ。

子供たちが寝入ってしまうとオレも直江もどっと疲れた。やっぱ楽しいけど疲れるもんだな。
直江はワインを持ち出してリビングで飲み始めた。

「疲れますね……」
「な。可愛いんだけど、やっぱ子供のパワーにはついていけないみたいだ」
「一気に3人ですからね。でも、あなたと親子の真似ができて、幸せな気分でしたよ」
「オレも」

ソファでチューした。今日はいつもの1割もキスできてない。母さんからの電話が来て、直江のお姉さんが来て、その後一回しただけ。
すっごくしたかった。

「毎日勉強で大変なのに、こんな忙しい休日になってしまって申し訳ありませんよ」
「いいって。楽しいから。それに親子なんだし」
「子供は出来ませんけど、そのぶんあなたを大事にしますからね」
「うん」

何度もチューして、直江に寄りかかって甘えて、もしオレたちに子供が出来たらどんな子なのか想像しながら話した。
直江に似て変態かもよって言うのはかろうじて耐えて。
そんなこと言ったら「高耶さんに似たら淫乱かもしれませんね」って反撃されちまう。淫乱なんかじゃないのに!

それから1時間ぐらい甘いひとときを過ごして(若い夫婦もこんな感じなのかな?)寝る前に子供たちを見に行った。
みんな疲れて寝ちゃっててグッスリだった。

「うわ〜、可愛いなあ……」
「ええ、可愛いですね……高耶さんにたくさん遊んでもらって、満足したんでしょうね」
「直江がほとんど面倒見てたじゃん」
「でもお兄ちゃんの方が人気者でしたよ。嫉妬するぐらい」
「どっちに?」
「もちろん、子供たちに。あなたを取られてしまって」

やっぱ直江はバカだった。子供に妬いてどうするんだ。

とりあえず夜泣きの心配があるリョウくんだけを寝室に移すことにして、抱っこして移動。冬用の掛け布団を畳んで床に敷いてそこに寝かせた。
赤ちゃんがいる寝室か〜。いいな〜。いい匂いがする〜。

で、オレたちも寝るかってベッドに入った。
ダメだって言ってんのに、エッチなことしようとしたから寝ながら腹にリバーブロー食らわせた。思ったより痛かったみたいで
蹲っちゃって、慌てて謝ったら今だとばかりに組み敷かれて……これ以上はもう言えない。内緒。
だってあまりにも悲惨で。直江が。

 

 

翌日はなぜか脇腹と太ももに青痣を作った直江が、チャイルドシート付きのレンタカーで東京観光。
つっても後楽園遊園地に来ただけだ。
俊介は午後イチで新幹線に乗せなきゃいけないし、ひなちゃんとリョウくんは夕方になったらお姉さんが迎えに来る。
そんなわけで直江んちから一番近い子供の遊び場に連れてきたわけ。

リョウくんがいるから動きの激しい乗り物はパスして、ひなちゃんの好きなメリーゴーランドだとか、俊介が入りたがったホラーハウスだとか、リョウくんが喜びそうな100円で動く車だとか、公平に選んで乗った。
さすがに小さい女の子をホラーハウスに入れるわけにいかなくて、オレと俊介と二人で入った。もうギャーギャー騒いで大変!
ああ、怖かった!
笑いながら戻ったら直江がひっそりこう言った。

「今度は二人きりで来て入りますからね」

って。また妬いてやがる。

「お兄ちゃん、今度は野球見に来たい」

俊介が東京ドームを見ながら言った。シーズンオフだから野球はやってなくて、ドーム前は閑散としてたけど、きっと夏なら
混雑してるんだろうな。

「いいよ。でもここじゃ楽天の試合やんねーぞ?」
「そうなの?でもいい。オレ、お兄ちゃんと野球が見たい」
「……そっか。じゃあ今度はオレが仙台まで行くよ。そんで楽天の試合見ような」
「やったー!」
「ひなも!」

ひなちゃんは俊介のやること全部真似したいみたいで、今回も話に乗ってきた。たぶん内容はわかってないんだろうけど。

「じゃあひなちゃんは叔父ちゃんと行きましょうね。それで高耶さんと俊介さんと一緒に野球を見ましょうか」
「うん!」

ひなちゃんはそう言った直江に抱きついて、抱っこしてもらった。リョウくんのベビーカーを押しながら直江がふんわり笑った。
叔父さんが大好きなんだな。優しくて男前なんだから当然か。うーん、直江の気持ち少しわかった。妬ける。

「そろそろ新幹線の時間ですね。行きますか」

駐車場に停めた車に乗り込んで東京駅へ。お土産に東京バナナゴーフレットを持たせて、新幹線の座席まで。
直江にはホームで待っててもらって。ひなちゃんがだいぶ寂しそうに直江に抱っこされてふてくされてる。

「ちゃんと母さんに謝るんだぞ。わかったな。謝らなかったら仙台の野球は行かないからな」
「はーい」

本当にわかってんのかな?まあ、オレの弟だからしかたないか。
出発の音楽が鳴って、最後に頭を撫でて列車から出た。何度も振り返りながら。
ホームではひなちゃんが大泣きで窓の向こうの俊介を見てる。そんなに楽しかったのかな。なんか、オレも寂しくなってきた。

そして新幹線は手を振る俊介を乗せて、ゆっくりと発進した。

しばらく泣き止まなかったひなちゃんもマンションに着く頃には泣きつかれて寝てしまった。レンタカーを返しに行った直江が
戻ってくるまで、オレは涙の跡が残るひなちゃんの顔をじっと見ていた。

「俊介さんと仲良くなれたのに、もう引き離されて寂しいんでしょうね。……高耶さんもですか?」
「うん……」
「今度は一緒に仙台に行きましょうか。俊介さんと、お母さんに会いに」
「直江と?うーん、そうだな。一緒に行こうか」

眠ってるのをいいことに、オレと直江はしばらくの間チューした。

 

 

夕方、お姉さんがやってきた。

「ちょっと姉さん!勝手に上がりこまないでくださいよ!」

ひなちゃんとリョウくんを玄関まで行かせて、部屋には入れないように直江が工夫(画策?)したのに、お姉さんは部屋に入ってきた。

「いいじゃないの。ちょっと休ませてよ。一人暮らしのくせにこんないいマンション住んでるんだから」

どういう理論なのかわかんないけど、オレ、ピンチ!!

「あら、お客様だったの?」
「はっ、はじめまして!仰木高耶です!」

うわわわわ!すっげー美人!直江に似てる!って、それどころじゃないっての!!

「ちょっと、そこのトップモデルのタチバナヨシアキさん。お姉さんにお茶くらい出しなさい」
「……そういうの、やめてください。いくら姉さんでもお客さんの前で……」
「いいのよ。ええと、高耶くんだっけ?トップモデルのタチバナヨシアキさん、高耶くんの分もね」
「……はい……」

お姉さんが勝手に話し出したことによると、このマンションはお姉さんが狙ってた物件だったらしい。不動産屋のお兄さんが直江よりも先にお姉さんにこの物件の話を持って来なかったのがまず第一の不満。

そして直江がお兄さんから聞いたその場で購入を決めて、お姉さんへの報告を後回しにしたのが第二の不満。

お兄さんの言い訳として、直江の収入がお姉さんの旦那さんよりいいせいだから先に話を持って行ったんだって言われたのが第三の不満。

とにかく蚊帳の外だったのが気に入らなかったらしい。
それ以来、嫌味として「トップモデルのタチバナヨシアキさん」と呼んでるそうだ。
で、最後の不満。

「あんた最近私が用事を言いつけてもすぐ断るんだから。ああ、気に入らないわ。兄さんが言うには本命の彼女が出来たからってことだけど、そうなの?そうだとしたら彼女とお姉さんとどっちが大切なのよ?」

うわ〜。すっげーこえ〜!!直江が頭上がらないの当然だ!

「本命の恋人に決まってます」
「……言ったわね……そう、わかったわ。今度、その恋人やらに会わせなさい。私が審査するから」

マジかよ!!不合格確実じゃねえか!!
てかお姉さん!あなたの目の前にその恋人がいますけどどうしましょうか?!

「審査など必要ありません。私が選んだ人ですから、あなたに何を言われようが絶対に邪魔はさせません。邪魔したら姉さんであろうと、裁判覚悟で叩きのめしますよ」

本気で直江が言った。……嬉しい……!!

「あ、そう。わかったわ。もし変な女だったらいじめ抜いてあげるからね。あんたも彼女に覚悟しておきなさいって伝えなさいよ」
「伝えませんよ。完璧な恋人なんですから」
「生意気になったわね。……こんな叔父さんのとこにいたら娘たちが穢れるわ。さあ、ひなちゃん、リョウくん帰りましょうね」

台風のようなお姉さんはひなちゃんとリョウくんを連れて玄関まで行った。
ひなちゃんがまた泣きながらオレに抱きついて「帰りたくない」って言うのを見たお姉さんは、よっぽどオレを気に入ったんだろうって言って、なんかわかんないけど誉めてくれた。

「あんたの彼女には懐かないようにしておかなきゃ」
「ふふん」
「なあに、その不適な笑いは」
「いいえ。何でもありません。では気をつけて帰ってください」
「言われなくてもそうしますわよ。ふん」

ひなちゃんとリョウくんに「また遊ぼうな」ってチューをしてやって、エントランスまで見送った。

 

 

さっきの直江とお姉さんのやりとりを思い出して笑ってたら、いい加減に笑わないでくださいよってほっぺたを軽くつねられた。

「すげーお姉さんだな。強烈。あれなら直江が怖いって言うのもわかる気がする」
「そうでしょう?」
「でも仲良さそうだった。ああやって直江を心配して、頼って、可愛がってるんだなって」
「高耶さんがあれを可愛がってるように見えるって言うならそうなんでしょうね。あんなでも姉の性格は好きですから」
「直江は……幸せな家庭に育ったんだな。オレみたく複雑じゃなかったから、だからきっと誰にでも親切で優しくできるんだ。
やっぱ家族は大事にしろよ?」
「……あなたの次にね」

直江は少しだけ寂しそうに笑ってから、

「あなたの優しさは私の心に深い所から沁み込みます。それはきっと、あなたが辛かった分だけ、他の人に優しくしたいっていう気持ちから湧いてくるものだと思いますよ」

って、言いながら、オレをゆっくり抱きしめた。

「だから何も否定しないで」
「……うん」
「俊介さんも、ひなちゃんも、リョウくんも、あなたの優しさを知ってるんですよ」
「うん……」

直江の腕の中で少しだけ泣いた。

楽しかった休日の締めは、やっぱり直江が持ってきてくれた。

 

END



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あとがき

子供ちゃんだらけで難しかったです。
季節感がなくてすいません。
11月終わりあたりです。
なんかダレてきたな・・・
気をつけなきゃ。