同じ世界で一緒に歩こう 30 |
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「どうする?」 今までいいお父さんをやってたのに、急に寂しそうになった。 でかい男がリョウくんを潰したら大変だからひなちゃん側の端っこに寝かせた。すでにリョウくんはぐっすりだ。 「じゃあ、叔父さんたちはまだ起きてますから、何かあったらすぐにリビングかあっちの寝室に来てくださいね」 どうしようか迷ったんだけど、俊介は年齢の割りにしっかりしてるからじゃあ一緒にしようかってことになった。 子供たちが寝入ってしまうとオレも直江もどっと疲れた。やっぱ楽しいけど疲れるもんだな。 「疲れますね……」 ソファでチューした。今日はいつもの1割もキスできてない。母さんからの電話が来て、直江のお姉さんが来て、その後一回しただけ。 「毎日勉強で大変なのに、こんな忙しい休日になってしまって申し訳ありませんよ」 何度もチューして、直江に寄りかかって甘えて、もしオレたちに子供が出来たらどんな子なのか想像しながら話した。 それから1時間ぐらい甘いひとときを過ごして(若い夫婦もこんな感じなのかな?)寝る前に子供たちを見に行った。 「うわ〜、可愛いなあ……」 やっぱ直江はバカだった。子供に妬いてどうするんだ。 とりあえず夜泣きの心配があるリョウくんだけを寝室に移すことにして、抱っこして移動。冬用の掛け布団を畳んで床に敷いてそこに寝かせた。 で、オレたちも寝るかってベッドに入った。
翌日はなぜか脇腹と太ももに青痣を作った直江が、チャイルドシート付きのレンタカーで東京観光。 リョウくんがいるから動きの激しい乗り物はパスして、ひなちゃんの好きなメリーゴーランドだとか、俊介が入りたがったホラーハウスだとか、リョウくんが喜びそうな100円で動く車だとか、公平に選んで乗った。 「今度は二人きりで来て入りますからね」 って。また妬いてやがる。 「お兄ちゃん、今度は野球見に来たい」 俊介が東京ドームを見ながら言った。シーズンオフだから野球はやってなくて、ドーム前は閑散としてたけど、きっと夏なら 「いいよ。でもここじゃ楽天の試合やんねーぞ?」 ひなちゃんは俊介のやること全部真似したいみたいで、今回も話に乗ってきた。たぶん内容はわかってないんだろうけど。 「じゃあひなちゃんは叔父ちゃんと行きましょうね。それで高耶さんと俊介さんと一緒に野球を見ましょうか」 ひなちゃんはそう言った直江に抱きついて、抱っこしてもらった。リョウくんのベビーカーを押しながら直江がふんわり笑った。 「そろそろ新幹線の時間ですね。行きますか」 駐車場に停めた車に乗り込んで東京駅へ。お土産に東京バナナゴーフレットを持たせて、新幹線の座席まで。 「ちゃんと母さんに謝るんだぞ。わかったな。謝らなかったら仙台の野球は行かないからな」 本当にわかってんのかな?まあ、オレの弟だからしかたないか。 そして新幹線は手を振る俊介を乗せて、ゆっくりと発進した。 しばらく泣き止まなかったひなちゃんもマンションに着く頃には泣きつかれて寝てしまった。レンタカーを返しに行った直江が 「俊介さんと仲良くなれたのに、もう引き離されて寂しいんでしょうね。……高耶さんもですか?」 眠ってるのをいいことに、オレと直江はしばらくの間チューした。
夕方、お姉さんがやってきた。 「ちょっと姉さん!勝手に上がりこまないでくださいよ!」 ひなちゃんとリョウくんを玄関まで行かせて、部屋には入れないように直江が工夫(画策?)したのに、お姉さんは部屋に入ってきた。 「いいじゃないの。ちょっと休ませてよ。一人暮らしのくせにこんないいマンション住んでるんだから」 どういう理論なのかわかんないけど、オレ、ピンチ!! 「あら、お客様だったの?」 うわわわわ!すっげー美人!直江に似てる!って、それどころじゃないっての!! 「ちょっと、そこのトップモデルのタチバナヨシアキさん。お姉さんにお茶くらい出しなさい」 お姉さんが勝手に話し出したことによると、このマンションはお姉さんが狙ってた物件だったらしい。不動産屋のお兄さんが直江よりも先にお姉さんにこの物件の話を持って来なかったのがまず第一の不満。 「あんた最近私が用事を言いつけてもすぐ断るんだから。ああ、気に入らないわ。兄さんが言うには本命の彼女が出来たからってことだけど、そうなの?そうだとしたら彼女とお姉さんとどっちが大切なのよ?」 うわ〜。すっげーこえ〜!!直江が頭上がらないの当然だ! 「本命の恋人に決まってます」 マジかよ!!不合格確実じゃねえか!! 「審査など必要ありません。私が選んだ人ですから、あなたに何を言われようが絶対に邪魔はさせません。邪魔したら姉さんであろうと、裁判覚悟で叩きのめしますよ」 本気で直江が言った。……嬉しい……!! 「あ、そう。わかったわ。もし変な女だったらいじめ抜いてあげるからね。あんたも彼女に覚悟しておきなさいって伝えなさいよ」 台風のようなお姉さんはひなちゃんとリョウくんを連れて玄関まで行った。 「あんたの彼女には懐かないようにしておかなきゃ」 ひなちゃんとリョウくんに「また遊ぼうな」ってチューをしてやって、エントランスまで見送った。
さっきの直江とお姉さんのやりとりを思い出して笑ってたら、いい加減に笑わないでくださいよってほっぺたを軽くつねられた。 「すげーお姉さんだな。強烈。あれなら直江が怖いって言うのもわかる気がする」 直江は少しだけ寂しそうに笑ってから、 「あなたの優しさは私の心に深い所から沁み込みます。それはきっと、あなたが辛かった分だけ、他の人に優しくしたいっていう気持ちから湧いてくるものだと思いますよ」 って、言いながら、オレをゆっくり抱きしめた。 「だから何も否定しないで」 直江の腕の中で少しだけ泣いた。 楽しかった休日の締めは、やっぱり直江が持ってきてくれた。
END
あとがき 子供ちゃんだらけで難しかったです。
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