同じ世界で一緒に歩こう 36 かっこいいです、高耶さん!! 「高耶さん」 困ったような、嬉しいような顔をして私を見る。少しだけ頬を赤くして。 「学校のお友達ですか?」 そう言って二人をレジに誘導し、しかめっ面の兵頭と会計をして、包装をした。 一方高耶さんは笑顔でその包装を二人に丁寧に手渡し、「学校に着てこいよ」と言った。 「ありがとな。また来てくれよ。別に買い物しなくてもいいから」 最後まで手を振って、見送っていた。高耶さんの優しいところはこんなところだ。キレイだな、と思う。 「直江、もうちょっとで仕事終わるから」 そして高耶さんは閉店の準備を始める。今日も何か買って帰ろうと思っていたのだが、彼女たちに先を越されてしまったな。 店を出ようとしたところで声をかけられた。 「タチバナさん」 こいつはどうにも好かん。 「仰木ってモテますよね。心配になりませんか?」 お互い笑顔での応酬だ。そのへんは多少ぎこちないだろうが、私が言った言葉は本心でもある。 「アレの他にも仰木のファンは多いんですよ。ただ、仰木には彼女がいて、指輪もお揃いでしてるから誰もコクらないだけで」 私の指にも高耶さんとお揃いの指輪がはまっている。こうしてお互いにお互いを大事にしているという目に見える物が、自信を与えてくれる。 「直江、まだ店ん中にいたのかよ。外で待ってろってば」 兵頭はまだ諦めきれないようだ。可哀想なヤツだ。高耶さんが私以外の人間と、恋をすることはもう二度とないのに。 仕事が終わった高耶さんが兵頭と一緒に店を出てきた。楽しそうに笑いながらだ。 「おまたせ!」 相変わらず兵頭は高耶さんの隣りに立ったまま。もしかして、兵頭も連れていけと言い出すのではないのか? 「じゃ、行こうか。またな、兵頭」 良かった!そりゃそうですよね!私とのデートに邪魔者はいりませんよね! 兵頭は少しだけ悔しそうな顔をしたが、そんなものは無視だ。 「食べたいものは決まりましたか?」 一瞬、高耶さんの腕が私の方に伸びてきた。このしぐさは私と腕を組もうとする時に出るものだが。 「うっかりしてた」 可愛い人だ。もっと正直に生きることができたら、高耶さんという人は万民から愛される存在になるんだろう。
今夜は高耶さんのアパートにご招待されたかったのだが、最近バイトばかりしていて部屋を片付けていないからダメだと断られた。 「なんでそんなに来たがるんだよ?」 高耶さんの部屋の雰囲気も、高耶さんといる部屋の空気も、もちろんあの部屋でのエッチも。 「あ、もしかして……浮気チェックとか言い出すんだじゃないだろうな…?」 高耶さんが浮気などしないのは本人よりもこの私がよくわかっているのに。
高耶さんの部屋は、本当に散らかっていた。足の踏み場もないとはまさにこのことだろう。 「どうだ?浮気してるよーなモノは見つかったか?」 そんな中で荷物を用意してリュックに詰め、着替えも少しだけショップの袋に入れていた。 「そーだ。携帯の充電器も持ってかなきゃ」 散らかった床に埋まった充電器を探し出し、部屋に鍵をかけて出た。 「どうした、ニヤニヤして」 たぶんとてもいやらしい顔をしていたのだろう。脇腹をフックで殴られた。 「せっかく今日はエッチ解禁しよーと思ってたのに。もうしばらくナシだからな!」 そう言う高耶さんは、じゃれているみたいで可愛い。私を非難しているようで、実はそうじゃないところが。 「直江?本当に痛かった?」 下を向いたまま黙っていた私を心配してか、覗き込むようにして見てきたから、アパートの廊下だというのを承知でキスをした。 「な!何しやがんだ!急に!」 怒っているように見えて、そうじゃない。顔を赤くして、私から離れないでいてくれる。 「行くぞ!」 そしてあの仕草が出る。誰も見ていないから、腕を組む。 「マンション着いたら、ちゃんとチューしよ」 頼りがいのある青年に見える一面も高耶さんだが、こうして甘える高耶さんも本物で。 マンションに着いてすぐ、玄関でキスされた。 「私の事、好きですか?」 ソファで並んで座って、高耶さんの腰に手を回す。引き寄せて耳元で囁いて欲しかった。 「言って」 まだまだ聞きたい。 「アホだったり、バカだったり、かっこ悪かったり、情けなかったり、エロかったり、そーゆーとこも好き」 いや、それはちょっと複雑ですね……。 「でもな、やっぱり全部好き。ちゃんと真面目な話も、変な話もしてくれて、そうやって全部オレに曝け出してくれるじゃん?だから信頼っつーか、直江と一緒だったら何があっても大丈夫だって確信持てるから、安心していられる。ああ、もう。何言ってんだかな。だから!要は直江だから好きなんだよ」 そんな風に思ってくれていたなんて、嬉しくて涙が出そうになる。 「なあ、チューしてくれるんじゃねーの?」 どうして高耶さんを好きになったのか、と問われれば、私は陳腐な言い方しか出来ないだろう。 「私は、高耶さんが生まれてきたから、好きになりました」 キスの合間に囁いて、彼を徐々に落としていく。 「あなたに会うために、生まれてきたんだと思ってます」 これから先にあなたが生きていく上で、私はいつもあなたに必要とされますか? 「なおえ?」 高耶さんはイタズラを見咎められた子供を見るような目で私を見つめてこう言った。 「直江が嫉妬しなくなったら終わりだもんな。けどオレ、妬かれるの好きだよ。おまえがオレを好きだってことだから」 頼りがいのあるあなたも好きです。 「いつまでもヤキモチやいてあげます」 寄りかかって甘える高耶さんの髪を梳いて、私は私があなたのものであることを知った。 END
あとがき そろそろ佳境に入りますが
|
|||||