同じ世界で一緒に歩こう 42 |
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「はい、仰木……ええええ!マジで?!ちょっと待……!書くもの!直江!メモ帳!!」 どこからかはわからないが、キスを邪魔した憎い電話。しかしどうやら学校からの大事な話らしい。 「わかった。ここに電話して面接の日を決めてもらえばいいんだな?何て言えばいいわけ?あ、そうなんだ。今すぐしてみる」 携帯の通話を終わらせて、高耶さんはメモ用紙を見ながらちょっとだけ唸った。その顔も可愛らしい……。 「どうしたんですか?」 なんと!やはり高耶さんの実力をわかってくれる会社があったのだ!その会社の発展はこの私が保証するぞ!! 「良かったじゃないですか!」 私にはまったく心当たりがない。高耶さんは私のコネを使いたくないと言っていたので、そんなことは一切していないのだからなくて当たり前だ。 「そっか……なら良かった」 電話の内容はこうだった。 なぜそんなことになったかというと、あのコンクールだ。 「それでどこの会社なんですか?その見る目のあるナイスな会社は」 モトハルだと?!どうしていったいどんなわけでモトハルが?! 「あそこはフォーマル部門はありませんよ?」 まったく知らなかった。当たり前だが企業秘密というやつなのだろう。 「じゃあ受かれば高耶さんは東京に残るってことですね……?」 いいぞ、モトハル!!よくぞ高耶さんに目をつけた!さすが私のクライアントなだけある!! しかしモトハルは仕事に私情を挟むような男ではない。いくら面接で高耶さんが知った顔だからと言っても優先してくれるはずがない。 いや、高耶さんが優秀ではないとは言わないが、今のところ学校での成績は中の上あたりだろう。 「コネなんか使うなよ……?」 見破られたか。 「今から面接の日取りを決める電話入れるから、おまえはとにかく黙っててくれよ」 そして高耶さんは指示された電話番号をプッシュして面接の日を決めていた。
翌日、ファッションショーのために日帰りで京都へ行った。 高耶さんは時間ギリギリまで寂しがりの子ウサギちゃんのように私の胸に鼻を擦り付けて甘えていた。 後ろ髪を引かれながらアパートを出て東京駅へ。待ち合わせの改札にはすでに一蔵がいた。 「なんだ?遅刻はしてないはずだが」 一蔵が言うと「まったく最近の若者は」と思うような言葉「バックレ」。 「どうして俺がそんな真似をすると思うんだ。マネージャーだろう?モデルを信じろ」 改札を抜けながら一蔵がチラチラと私の顔色を伺う。いったいどうしてこんなおかしな態度を取るんだ。 「言え」 しまった。墓穴を掘ってしまった。 「そんなものはただの噂だ。辞めるわけないだろう」 安心したのかいつもの調子に戻った一蔵。ゲンキンなものだが、それでもここにもう一人、私にモデルを続けて欲しいと思っている人間がいる。 「じゃ、タチバナさん、これサンドイッチです。朝食まだですよね?」 一蔵の家の近所にある人気のパン屋の紙袋を渡され、私はグリーン車、一蔵は普通車に乗って京都へ向かった。 ショーが催されるホテルの会場でリハーサルをし、休憩時間に控え室で文庫本を読んでいると携帯電話が鳴った。 「はい」 なんとも都合のいい時にモトハルから電話がかかってきた。 「おまえ、モデル辞めるって本当か?」 いつか高耶さんと一緒に仕事ができるように。なるべく長く。 「は〜、安心した。おまえがいなくなったら誰がうちのカタログを飾るのかと焦ったよ。おまえの代わりなんかいないからな」 ここにも一人いた。 「それは済まなかった」 まさか高耶さんとの関係が……? 「名前は忘れたが最近テレビや雑誌で売れてるタレントの女がいるだろう?一応ファッションモデルという触れ込みの」 高耶さんとけやき坂で出くわした時に連れていたあの女か。 「モデルを引退するのはその女と結婚して実家の稼業を継ぐんじゃないか、という噂だ」 その鍵を握っているのはまさにおまえだ、モトハル! 「おかしな噂には気をつけろよ。向こうの女は破竹の勢いで売れてるんだ。写真なんか撮られたらカミさんに誤解されるぞ」 とっくに誤解されていたと言いたいところだが、余計な話はしない方がいいだろう。 「じゃあまたな」 切ろうとしたモトハルを制止して、肝心な話をした。少し探りを入れるぐらいなら高耶さんも怒らないだろう。 「ところでモトハル、今度新部門を創設するそうだな」 一応企業秘密のようなので、他のモデルやスタッフに聞こえないように部屋の隅でヒソヒソと話した。 「どうしてもこうしても、その立ち上げのデザイナーの新卒面接に高耶さんをスカウトしただろう」 モトハルはまったくわからなかったらしい。 「だからって優先はできないからな。それはおまえもわかってるだろう?」 そうは言うがやはりモトハルは企業の社長で、一流のデザイナーだ。 「まあ高耶さんの服を見て驚くのはおまえのほうだろうな。面接を楽しみにしててくれ」 微妙な駆け引きをしてモトハルは通話を切った。この話は高耶さんには黙っていたほうがいいだろう。
ツヅク
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後処理。 |
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