同じ世界で一緒に歩こう 46 |
||||
後日。 「どうしたんですか……?」 姉が来ることなど兄は言っていなかった。急にどうしたのだろう。 姉と肩を並べて兄の家に入り、居間に通される。兄らしい日本家屋の新築の家はまだ木の香りがしている。 「メシでも食いながらと思ったんだけどな、先に冴子からおまえに話があるそうだから」 今回は兄に味方が出来たということになるな。この姉だったら兄の優秀なブレーンになるだろう。 「実はね、私は知ってたの」 知っていた、とは? 「前に娘たちをあなたに預けたでしょ?あの時に娘が言ったのよ。叔父さんがお兄ちゃんとチューしてたって」 見られていたのか。小さい子だからと言って甘く見てはいけないな。 「あの子達が懐くのならあなたの付き合っている相手は悪い子じゃないわね。高耶くんて名前だったわね?娘たちを大事に扱ってくれたのを知ってるから、私は反対できないわ。私も気に入ったしね。あの子だったら大丈夫な気がするのよ。だから兄さん、私は今回、兄さんの味方はできません」 まさか姉がこちらの味方になってくれるとは思っていなかった。 「兄さんは知らないでしょうけど、高耶くんは優しい子なのよ。こんなバカな弟を庇おうとして必死だし、弟の悪口を言ってる私の話もちゃんと聞くしね。それだけで決められないのはわかってるわ。だけど娘が高耶くんと一緒に過ごした2日間がとっても楽しかったらしくて、また遊んでもらいたいっていつも言うの。手を繋いで買い物をしたり、お風呂で遊んでもらったり、一緒にメリーゴーランドに乗った時は落ちないようにずっと体を支えてくれてたって楽しそうに言うのよ。子供には子供の視線に合わせてあげるってことを良く知ってるから友達として接してくれたんだってすぐにわかったわ。そんな子と付き合ってるのに反対する理由があるわけないじゃないの。そうでしょう?兄さん」 正直言って驚いた。まさか姉がそこまで高耶さんを観察していて、姪っ子がそこまで高耶さんを気に入っていたとは思わなかった。 「いい子だからと言っても、男なんだぞ?」 当事者の私を無視したまま兄と姉の口論が続く。 「いつも他人を差別するなって私たちに教えてきたのは両親と兄さんだったわ。その兄さんが弟を差別するわけ?付き合ってる相手が男だってだけで?じゃあ考えてみてちょうだい。もしも兄さんが愛した人が男だったとして、それだけで反対される気持ちを。その相手の気持ちは汲んでやらないの?兄さん!」 つらそうに兄が目を閉じた。姉はずっと兄を睨みつけている。 「……兄さん、姉さん。もうやめてください。あなたたちがケンカをすることではないんですから」 姉は知っているのだろう。大事にされることがどれほど重要なことかを。高耶さんの立場で物を考えられるのはこの場では姉だけなのだから。 「好きになったら男も女も関係ないのよ。あんたが愛した子は、あんたにとっては世界で唯一なんだから」 気が強いくせに涙もろい姉は、ハンカチに涙を染み込ませてその先の私と兄の会話を聞いていた。 「冴子から反対されればおまえも目が覚めるだろうと思っていたんだがな」 姉がここまで高耶さんのことを印象深く話してくれたおかげで、私が説明する必要はなくなった。 「ひとつ条件があります」 それで話は終わりだ。 「あんたの家に、今いるの?」 マンションの前で姉と別れた。姉はそのままタクシーで帰って行った。
「おかえり。どうだった?」 キスをして抱きしめた。いつもしていることだったが、今日は心の底から感謝と愛を込めてキスと抱擁をした。 「どうしたんだ?」 いつもよりも長くて力強いキスに高耶さんが驚いていた。 「感謝をしてるんです」 着替えている間に高耶さんが用意してくれたのは濃い目の緑茶だった。 「お兄さん、なんだって?」 想像していた通り、ビクッと震えた。 「姉も来てたんです」 姉がどうして私たちの関係を知っていて、味方になってくれたのかを詳しく話した。 「兄と会う時は姉にも同席してもらうつもりです。人海戦術というわけではありませんが、できるだけこちらに有利にしておかないといつ足元を掬われるかわかりませんから」 これを越えなければいけない山だとすると、私と高耶さんはまだ尾根を手を繋いで歩いているだけなのだろう。 肩を抱いて引き寄せると、久しぶりに高耶さんから甘えてきてくれた。 「学校の課題やっててもいろんなこと考えて手につかなかったりしてた」 不安というものは、他人に預けるわけにはいかないものだ。 「あなたの不安はあなたのもので、私にはどうしようもありません」 ようやく笑顔が戻ってきた。
ツヅク
|
||||
お姉さんサイコー! |
||||