同じ世界で一緒に歩こう 51 |
||||
1月2日、午後1時、宇都宮駅。 直江の実家だ。とうとう来ちまった。 少し懐かしさもあってポケッとしてる直江。そーいやオレと出会ってから実家に帰ったって話を聞いたことないんだけど、もしかして一回も帰ってなかったり? 「いつぶり?」 やっぱり!!いくら忙しいつっても2年はひどいだろ! 「親不孝だな」 本当に反省してるみたいだからそれ以上は言わなかった。 「ここからどうやって行くんだ?」 東京から持ってきたカバンの他に松本で大量に買ったお土産。 タクシー乗り場で捕まえたタクシーのトランクに荷物を載せて、「光厳寺へ」と言うとすぐにわかってくれたようだった。 「有名な寺なのか?」 それ以外で有名になるところのない寺なのかよ。 「山寺か」 天狗みたいな格好の修行僧がいるのかな?五重塔はあるのかな? 「……何を想像してるのか予想はつきますが、そんなものありませんし、いませんよ」 寺ってあんまり行ったことないからわからないけど、オレが知ってる坊さんのイメージっつーとおっかない、ってのがある。 「怖くないですよ。普通の僧侶で、普通の家庭です」 オレの勘違いをひとつひとつ訂正してもらってる間に直江の家、というか寺に着いた。 「……これ?」 オレの目の前にあるのは山門。しかもその先はなが〜い階段が続いてて、さらにその奥は森になってる。 「これ登るのかよ!マジで?!」 なんでこんな山道みたいな階段を登らないといけないんだよ! 「使えないって……使えないって……」 しかも直江は「使えない」って言っただけでこの落ち込みようだ。冗談もわかんねえのか!! 「ああ、もう!たった一言でウジウジすんな!ほら、登るんだろ!」 ものすごい怖い顔をしてゼーゼー言いながら登りきった。久しぶりに何かをやり遂げた気分になるぐらい長い階段。 「つ……ついた……」 二人で息を切らして本堂の前へ。 「一応ね。お寺の基本ですから」 手を合わせて瞑目していると背後から聞き覚えのある女の人の声がした。 「あら、もう来てたの?」 年末から来てたってゆう直江のお姉さんがそこにいた。 「誰か来たみたいだってお父さんが言うから出てみれば、あんたたちだったのね。宇都宮駅から電話してくると思ったのに」 どうやら車を運転できる人間は全員酒を飲んでるようだった。直江の家系は酒好きなのか? 「明けましておめでとうございます、お姉さん」 全員……?てことは? 「そんなにいるんですか……」 大丈夫なわけがない!!予想はしてたけど一家が揃ってるなんて思ってなかったっつーの! 「か、帰っていい……?」 そーゆー問題じゃないっす、お姉さん! 「覚悟してきたんでしょ?さ、行くわよ」 お姉さんに腕を取られてズルズル引っ張られて直江家の玄関へ。 「おかーさーん、バカ息子が帰ってきたわよ〜」 高耶さんの前でバカ息子はないでしょう、と直江が言ったらお姉さんが一睨みした。やっぱメデューサだ。 「あらあら、いらっしゃい〜」 出てきたのは直江が言うようなシルバーなお母さんじゃなく、けっこうキレイで若々しいお母さんだった。 「ただいま、お母さん。……どうしたんですか、そんな着物着て……らしくない……」 らしくない?? 「お母さん、この子が高耶くん」 お姉さん!いきなりそんな紹介の仕方でいいんすか!オレまだ心の準備が!! 「はっ、はじめまして!」 ……お母さん、直江を無視してないか? 「お母さんたらね、可愛い男の子が来るからって若い頃の着物出したりお化粧念入りにしたりして大変だったのよ」 嬉しいっちゃ嬉しいんだけど、なんなんだ、その評価。可愛い男の子って、まるで直江みたいな言い方……。 「お母さん、姉さん、私を無視して何を盛り上がってるんですか」 直江は絶対にお母さん似だ。興味ないと平然と無視するとこなんか特に。 「一度部屋に荷物を置いてから居間に行きますから。お母さん、部屋は別棟でいいんですよね?」 お土産だけ渡して玄関に上がった。別棟ってぐらいだから外から出入りするのかと思ったら、母屋から渡り廊下で繋がってるんだって。とにかくでかい家だ。 「こっちですよ」 長い廊下を歩いて進むと、日本家屋でよく見かける渡り廊下があった。風流ってのか?そんな感じ。 「ほえ〜」 幽霊は怖いけど、母屋で直江と離れ離れになって寝るのはもっと怖い。いろんな意味で。 「どこもおかしくありませんよ。高耶さんだったら何を着ても似合いますしね」 まあいいじゃないですか、なんて頬を上気させながら言われた。ちょっと今日の直江はテンション高いかも。 「さ、行きますよ。覚悟はいい?」 さっきお姉さんがビクビクしながら、とか言ってなかったか? 「大丈夫」 いつもみたいにチューされて抱きしめられて背中を叩いてもらったら、少しだけ緊張がほぐれた。 「行きましょうか」 肩を抱かれてまた母屋に。 「ただいま帰りました。ご無沙汰してます」 そう直江が言ったとたんに注がれる視線。大勢がオレを見てる。 「いらっしゃい、高耶くん」 あのお兄さんが笑顔で歓迎してくれてる。あの、お兄さんが。嘘みたい。 「こっち座りなさい。子供たちは別の部屋で遊ばせているから、今のうちに紹介しておくよ」 やっぱ酔っ払ってるみたいだ。 「仰木高耶さんです。私の……人生の伴侶です」 そんな言い方するなんて聞いてねえぞ!!伴侶って!! 「おっ、仰木高耶です!よろしくお願いします!!」 顔を真っ赤にしてまた頭を下げた。こんな状況、どうやってやり過ごせばいいかわかんないよ! 「高耶さん、こちらが両親です。で、こちらが長男夫婦、そして……」 直江は次々紹介してくれたけど、オレの頭は沸騰状態。いちいち「よろしくお願いします」と言うだけで精一杯だ。 さっきのお母さんは優しかったけど、お父さんは何も言わないからちょっと怖い。 「4月から……というか3月下旬から同居しますので、みなさんよろしくお願いします。あまり高耶さんをいじめないでくださいね」 そんなノロケとも冗談ともつかない直江の言葉すらきちんと頭に入ってなかった。 「お腹すいたでしょう?たくさん食べてちょうだいね」 空腹なんか感じないほど胃が縮み上がってる。 「な……なおえ……」 でもお父さんは相変わらず無表情。なんで?やっぱ反対なわけ?
1月2日、午後3時、直江家。 「お兄ちゃん!」 それは直江の姪っ子。お姉さんとこの上の女の子だ。 「お兄ちゃんだ〜!ねえねえ、しゅんくんは?!」 しゅんくん、てのはオレのオヤジ違いの弟。 「俊介は今日はいないんだ。ごめんな。代わりにオレじゃダメ?」 飛びつかれて抱っこして、頭を撫でてやったらものすごい視線が集まった。 「人見知りする子がなあ……」 ボソリとつぶやいたのは冴子さんの旦那さん。 「遊んであげたらどうですか?」 直江に言われて居間から退出。もう耐えられないぐらい緊張してたから良かった! 「高耶くんも疲れたでしょう?ここは私に任せて、部屋で休んだら?」 直江と別棟の部屋に戻って座布団を並べて少し横になった。 「疲れた……」 不思議だなんて言われたことないぞ。別に不思議なこと言って他人の興味を引こうとしたことないし、超能力があるわけじゃないし。 「私を真面目で一途な男にしたからですって」 それはあの居間でみんながオレに笑顔で気を使ってくれてたからわかる。 「お父さんは?」 ならいいんだけどさ。 「高耶さん」 なるべくこの家ではイチャイチャしないようにしようって思ってたけど、今は二人きりだし、甘えたい気分だ。
ツヅク
|
||||
高耶さん、初宇都宮。 |
||||