同じ世界で一緒に歩こう 53 |
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卒業制作のための原案が出来たのは秋。 今回は卒業ってことで、今までの集大成なわけだから半端なものを作るわけにいかない。 それになんたって卒業展示会ってゆーファッションショー形式のコンテストなわけだから、いい成績を取る=賞金が出るんだな。 今回は毛皮を使おうと思った。フェイクファーで充分なんだけど、目立つところは本物のファーで。 バイト代から2万出せるとして、あとの3万は仕送りを節約して捻出するしかない。 どうしよう。直江に借りてもいいんだけど、それはそれでなんかヤダ。 こんなことなら正月に帰った時に小遣い貰っておくんだった……。 そんな話を譲んちで千秋に愚痴ったんだ。 「あ、千秋、金貸してよ」 譲にも聞いてみたけど、いくらなんでも3万円も貸すのは無理だって言われた。
その翌日、親父に電話しようと携帯を持ったところで千秋から電話がかかってきた。 「なんだ?」 モデル?千秋や直江みたいな? 「無理だよ!そんな時間もねえもん!」 即決だ。どんな内容かはわからないけど日給3万円なんて他には有り得ない金額だろ? 『……おまえな……。まあいいや。内容聞くか?』 あんまり広告費をかけられないって内容で広告代理店から話があったそうだ。 「どんなカッコすんの?」 だったら目立つようなポスターじゃないはずだ。どうせ主役は千秋なんだから気楽にやってもいいのかも。 撮影は今週の日曜ってことで決まってるそうだ。 『んじゃ綾子に伝えておくから。日曜の朝、うちの事務所集合だからよろしく』 電話を切ってから譲にメールをした。オレもモデルやるからって。
「え?日曜日、デート出来なくなったんですか?」 直江がアパートに来てくつろいでた時に話した。今度の日曜は二人で家具を見に行く約束をしてたんだ。 「バイトって……バイク屋さんのバイトじゃないんですよね?またフィッターとか、そういう単発のですか?」 そうなのだ。美弥はまだ大学が決まってなくて、国立になるか私立になるかわからない。 「だから直江にこれ以上金を使って欲しくないんだよ。借りたっていつ返せるかわかんないしさ」 オレの心情をようやく理解してくれた。いつもみたいに優しく頭を撫でられる。 「こーゆー……甘やかしはいつもしてくれよ?」 生活面でも甘えることになるんだろうけど、オレは直江に大事にされてる感じがする甘やかしが好きだ。 「じゃあ土曜の夜はイチャイチャしてくれるんですよね?」 どの程度のことをされることやら……作業着つってもどんなのかはわからないから、キスマークだけはやめてもらわないと。 「それで、なんのバイトなんですか?」 これは黙ってた方がいいのか、それとも話した方がいいのか。 高耶さんの写真が日本中に貼られるなんて許せない!あなたは私だけのものだ!とかなんとか。 黙ってたってどうせ知られるんだろうな。千秋と直江は同じ事務所だもんな。 ああでもバレた時がおっかねえんだよな〜。 「まだよく知らないんだ。譲が知ってるからあとでちゃんと聞いておかなきゃな〜……エヘヘヘ」 直江の中では譲の信用は高い。真面目な歯科大生ってことになってるから。
土曜の夜は当然のごとくHLLTで、直江は明日のぶんもイチャイチャしたいとか言って夕方からずっとベタベタモードのまま、夜まで持ち越してベッドの中でもしつこいぐらいベタベタしてきた。 日曜の朝になって、二人で早起きして朝食を食べてる時にモデルのバイトだってことをバラした。 「な!なんですって?!」 目を見開いて、鼻の穴を大きく開いて、アメリカ人なみの大袈裟なジェスチャー付きで驚かれた。 「綾子にも長秀にも聞いてませんよ、そんな話は!」 いや、本当はオレが直江に内緒にしててくれって頼んだんだけど、それがバレたらすっげー怒られる。 「いくら作業着だからって高耶さんの魅力は半減するわけじゃないのに!ポスターを見た老若男女がすべてあなたに惹き付けられて3日と空けずにファンクラブ発足なんて話になったらどうするんですか!」 こいつの頭の中は相変わらずおかしな妄想が次から次へと浮かぶように出来てるらしい。 「イメージイラストを見せてもらったけど大丈夫だよ。千秋以外はヘルメットして座ってる写真になるんだ。しかも顔も体も黒いオイルみたいので汚れてる設定だし、写真は白黒だし」 うっぜー!! 「もう約束しちゃってるから反対してもダメ!直江だっていいって言ったんだぞ。男に二言はないはずだ」 そろそろ出る準備をしなきゃいけないから無視して洗面所で歯磨きをして最終チェックの鏡を見た。 「私も行くことにしました」 どうせ綾子ねーさんを脅してOK貰ったに違いないんだ! 「私の高耶さんですから。しっかりと監視しないと何をさせられるかわかったもんじゃありません」 そんなに意気込むことじゃないのに〜。 「行きましょう!」 これってもしかして前途多難てやつか?
車の中で譲に電話したら、直江がついてくるってことに超驚いてた。 さすがの譲も直江の不穏な気配を感じ取って、今回ばかりはどうなることかとビクビクしながら車に乗った。 「それで、どこが撮影現場なんだ?」 まるで直江が仕切るかのような口ぶりだ。 「ここから歩いてでも行ける距離よ。麻布。タクシー拾って行くわよ」 今日の担当はねーさんらしい。千秋のマネージャーは急な仕事だったせいで調整できなくて、他のモデルの付き添いでオーディションに行ってるそうだ。 「おい高耶!なんで直江に言うんだよ!こうなるってことわかんなかったのか?!」 ヒソヒソ声で千秋とケンカした。 「余計な口出ししてきたらおまえが止めろよな」 オレの制作費と卒業がかかってるんだ。邪魔だけはさせないぞ。
ツヅク
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なせモデルなんだ・・・。 |
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