同じ世界で一緒に歩こう 53 |
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スタジオに入るとクライアントの広報の人と、広告代理店の人がいた。 「タチバナさんがどうしていらっしゃってるんですか?」 だな。今回はスタッフとしてバリバリ働いてもらおうじゃねえか。ついてきた罰だ。 控え室に入ってスタイリストから渡された作業着はグレーの普通の作業着で、上着の胸には建設会社の名前が刺繍されてた。 千秋は最初それを見てちょっと嫌そうな顔をしたけど、やっぱり何を着てもかっこいいモデルなわけで、すっごい似合ってた。 「……千秋……おまえ、マジで何着ても様になるな……」 思ったより逞しくて「かっこいい作業員」みたいな感じ。 「あったりまえだろ。プロだぞ、俺は。ま、そういうおまえもすげー似合う。このまま就職できるんじゃねえの?」 なんだかそれってオレがモトハルに内定してるのが似合わないって言ってるみたいだぞ。くっそ。 「成田も案外似合ってるな。意外とイケてる」 みんなこういう格好は初めてだ。だからなんか学芸会の衣装合わせっぽく楽しんでたんだけど。 「……なぜ高耶さんだけこんな肌を晒す服なんだ……」 やっぱりか。タンクトップがお気に召さないらしい。 「直江、あんた今日はスタッフなんだからね。余計な口出ししないでよね」 ねーさんが持ち直して直江をうまく操縦してくれてる。よし、オレも今日は徹底して厳しくしよう。 それからメイク。汗をかいて汚れた感じを出すために体と顔にオイルを塗るらしい。塗ってからスプレーで水をかけると本物の汗みたく見えるんだって。 「あはは。ホントに工事現場の人っぽくなったね」 オレと譲はヘルメット着用で、目深に被って千秋の引き立て役になる。 「直江」 これはホントにそう思ってたけど、半分は直江の機嫌を良くするための策略だ。 「あああ!タチバナさん、触っちゃダメです!」 直江がオレのほっぺたを触ろうとしたとこを代理店の人に止められた。 「せっかくのメイクが剥がれますから!」 そっちか。直江の手が汚れるとかそーゆーの考えてたオレも相当直江にメロメロってことか? スタンバイが全部終わって撮影に入った。 「なんか飲み物買ってきて、直江〜」 こめかみに血管を浮かせながら、直江は手を差し出した。 「なに、この手」 今日はさすがに直江の味方はしてやれない。だってみんなに迷惑かけてるんだもん。 「直江さん、俺もコーヒーか何か欲しいんですけど」 泣きそうな顔してオレを見たけど。 「じゃあオレのも買ってきて。あったかい紅茶がいい」 背中を丸めてスタジオから出てった。スタッフの苦しみを知ればいいってねーさん言ってるけど、そんなに苦しいもんなのか? 「なあ、スタッフってそんなに苦労してんの?」 そうなんだ……直江ってワガママなのか……。 両手に缶を持って戻ってきた直江は目尻がヒクヒク痙攣してた。 「なーんか態度悪いな〜、今日のスタッフは〜」 千秋は異常に意地悪するし、ねーさんはそれを無視するし、譲は面白がってニヤニヤしてる。 「高耶さんからも何か言ってくださいよ」 直江の現役宣言に嬉しそうな顔をしたのはねーさんだった。 「そろそろスタンバイお願いしまーす」 撮影隊の人が呼びに来て再開。今度はリハーサルじゃなく本番だ。 今回はフィルムを使った撮影じゃなくて、デジカメでの撮影だったから全部の写真をモニターで確認できた。 「おお、なかなかいいじゃないか」 そう言ったのはクライアントの広報部長さん。 そしたらカメラマンが笑いながらこう言ったんだ。 「わざと怒鳴った甲斐があったな。目に力が欲しいって注文だったから、キミたちにこういう顔をさせるために怒鳴ったんだ。悪かったね」 そうだったんだ。こういう撮り方もあるんだ。 「これなんかいいね。この写真を使おう」 全員悪そうな顔つきのやつをクライアントの部長さんは気に入ったみたい。 「いかにも労働者って雰囲気にしたかったんだ。一生懸命な目をしてると印象深いポスターになるだろう?」 そーゆーもんなのか。まあなんつーか、笑顔ばっかりのポスターよりもインパクトはあるからな。
ツヅク
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誰かポスターイラスト描いてください。 |
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