同じ世界で一緒に歩こう 54 |
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「……なんだ、そのでかい花束は……」 見れば譲さんの手には紫色が基本で作られたこれまた小さな花束が。高耶さんには紫も似合うだろう。 「さっさと入って場所取りしましょう」 綾子に促されて入ると、もうすでに最前列のパイプ椅子は埋まっていた。椅子は5列ほどしかないので、さらに後から来る人々は立ち見になるそうだ。 花道の左側2列目の椅子が空いていたのでそこに5人で陣取り、長秀と譲さんは椅子に荷物を置いて展示物を見に行ってしまった。 もう高耶さんはステージ裏にいるのだろうか。普段は私がいるような場所に。 1時間ほど雑談をしたり、握手を求められて過ごしているうちに照明が暗くなった。 ライティングも音楽も凝ったステージ上に、スーツ姿の女の子たちが3人まとめて出てきた。 中盤に差し掛かり、フワフワしたイメージの服を着たモデルが出てくる。 「高耶さんの作品だ。チェックのドレス」 当然だ。高耶さんの作る服はいつだってステキに決まっているじゃないか。 「今回刺繍はしなかったのかしら?」 長秀も譲さんも、改めて高耶さんの実力に感心したのか、呆けた顔で見守っていた。 「あいつってすげーんだな」 たった1分足らずで作品は引っ込んでしまったが、私としては今まで出てきた服の中で一番の出来なように感じる。 そして後半の後半……見てはいけないものも見た。 「た、高耶さん!!」 演出で手を繋いでいるのは重々承知だ。 女の子はコットンで作ったヒラヒラの上下にニットのチュニックを重ね着していた。 高耶さんはその服に合わせたようなイメージのニットの重ね着。8分丈のフェルトのパンツと、同じフェルトで作ったらしき個性的な帽子も被っている。 「くそ……」 二人並んで出てきて、最後まで手を繋いで出て行った。私の高耶さんに触るなんて十万年早い。 「あ、フィナーレみたいよ。花束用意しなさいよ、直江」 生徒が順番に出てきてお辞儀をして去る。その間に花束やプレゼントを受け取ったりしていた。 「高耶さん!!」 会場の割れんばかりの拍手や歓声に負けじと声を張り上げた。高耶さんがこちらを見る。 「直江〜!」 譲さんも、綾子も、背伸びをして腕を伸ばしてステージ上の高耶さんに花束を渡した。 「……ありがとう!!」 私からの花束に一番嬉しそうな顔をして、少し涙ぐんだ。ああ、今すぐキスして抱きしめたい。 最後に審査員からの発表があり、今回の優秀作品が5点ほど番号と名前で言い渡された。
ショーが終わると観客が流れて出口に向かった。まだ他に展示物があるが、そちらは下級生の作品のため今日の客にとってはあまり感心がないらしい。 「どうする、直江。みんなでメシ食って帰るか?」 きっと高耶さんは片付けで忙しいだろう。それに今日は学校の友達とこの後過ごすのだろうし。 『少ししたら帰れるから、会場の玄関で待ってて』 なんとも嬉しいお知らせじゃないか。忙しいに違いないのに私のために出てきてくれるなんて。 「長秀。俺は高耶さんと帰るから先に帰っててくれ」 長秀がそこまで言ったところで綾子が割り込んできた。 「そんな無粋な真似しないのよ、長秀。二人きりにさせてあげなさいよ」 会場の外まで5人で出たはいいものの、私と長秀に気付いた人々がチラチラとこちらを見ている。 「直江さん、高耶が来るまで一緒に待ってようか?」 そんなわけで全員で待つことにした。チラホラと握手攻撃に遭いながら15分ほど待っていたら高耶さんがやってきた。両手には先程渡した花束が。 「うわ、みんなで待っててくれたんだ。今日は来てくれてありがとな!」 まだちょっと興奮状態なのだろうか。頬が赤い。食べてしまいたいほどに可愛いほっぺた。 「直江が一人じゃ待てないってゆーから仕方なくな〜」 長秀とのやりとりを笑って見ていた高耶さんに、譲さんが今日の感想を言った。 「でもすごくいいショーだったね。モデルやってる高耶もうまかったしさ。得した気分」 それから綾子もマリコさんも長秀もそれぞれに高耶さんに褒め言葉を投げかけ、高耶さんはいちいち驚いたり照れ笑いをしたりしていた。 「大通りまで一緒に行きましょ。私たちは食事して帰るけど、あんたたちは二人で帰るんでしょ?」 このまま可愛い高耶さんをタクシーで連れ帰ってラブな午後を過ごそうと思っていたのに……。 「じゃあ直江、今から6人分の席を予約できるレストランに電話してちょうだい」 見られていたのか……。 「何が食べたいですか?」 そこは雑誌でチェックした店ではなかったが、仕事仲間に紹介してもらって何度も行っている店なのでランチタイムの予約も店長を通せば難なく出来るはずだ。
ツヅク
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ギャグが少なくて不満。 |
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